関西電力のグループ会社「かんでんエンジニアリング」(大阪市北区)が10月、取引先の警備会社と一部の社員が示し合わせて、工事に必要な警備費を少なくとも数千万円分水増していたと発表した。社員は見返りに少なくとも現金600万円と度重なる接待を受けていた。遅くとも2019年度には関係ができていたという。
同社の発表によると、6月にコンプライアンス相談窓口への通報があり、発覚した。
見返りに現金や接待 水増しは数千万円
送配電設備工事を担う部署の13人が19~24年度、警備会社に請求書の修正を指示し、警備費の水増し請求に関わった。警備員の人数を実際よりも多くし、工事をしていない日にも配置をしたように装った。判明した23~24年度だけで水増し額は数千万円になるという。
13人のうち5人は警備会社から現金計約600万円や飲食費などの見返りを受けた。また、別の社員2人を含む計10人が毎月、割烹(かっぽう)料理店で送迎付きの会食をしていた。年2回のゴルフコンペの接待や商品券の受け取りもあった。
水増しに関わった社員の中には「優秀な警備員を確保するために、(警備会社に)お金を渡さなければいけないと思った」と話す人もいた。同社は調査結果で「利益供与が(水増しの)動機になったことは否定できない」としている。水増し行為は部署内で慣例化し、別の警備会社とも水増し請求した疑いがあるという。
同社の大久保昌利社長は10月の記者会見で「コンプライアンス(法令や社会規範の順守)意識がまだ従業員に浸透できていないのではないか」「コンプラをちゃんと守りなさいと言っているが、社員に本当に伝わっているかが問題だ」と語った。月額報酬の20%を2カ月分、自主返納する。対策として、研修の強化を検討するという。
水増し始まった2019年 関電では
社内調査はまだ続き、全体像は明らかになっていないが、こうした水増し請求と利益供与の構図は遅くとも19年度にはできていた。
同じ年度の19年9月には親会社の関電で、役員らが、原発がある福井県高浜町の元助役から計約3億6000万円相当の金品を受け取った問題が発覚。当時の八木誠会長、岩根茂樹社長らがその後、引責辞任に追い込まれた。
この問題を受けて関電は同年、社員の接待や贈答を原則禁止にした。かんでんエンジも関電にならい、接待や贈答について「社会通念上に照らして常識の範囲内」とする規定をつくったが、運用は社員に委ねられていたという。今回の問題を受けて10月、接待禁止を明記した。
関電の森望社長は10月の記者会見で、かんでんエンジの問題について「(19年以降に)どこかで是正する行動に移せなかったのかは、コンプライアンス上の我々の問題だ」と話した。
関電の組織風土 「あきらめやリスク感度の低さ」
関電は、金品受領問題後に就任した森本孝社長が20年3月、「改革への強い意志をグループの隅々にまで広げ、誠実で、透明性の高い事業活動を継続することを約束する」との宣誓を出した。だが、その森本氏は、副社長時代の18年に中国電力などとのカルテルを主導した1人だったことが23年になって発覚。社長退任後に就いていた特別顧問を辞任した経緯がある。
カルテル問題に加え、新電力の顧客情報を社員が不正閲覧した問題なども明らかになり、いずれも23年に国から業務改善命令を受けた。
一連の問題を受けて法令順守の強化の一環として、23年7月に社内に組織風土改革室をつくった。「組織風土にも問題がある」(広報担当者)との意識からだ。
改革室は、これまでの関電の組織風土を分析。意見をしても「結局変わらない」「仕事が増える」というあきらめや不安がある、「会社がつぶれることはない」とリスク感度が低い、組織外の情報を知らず、人材の多様性が確保できていない、などと整理した。
関電の社風は変わるか 「変化を積み重ねる」
現在の改革室の専任社員は8人。役員も参加する会議をこれまでに48回開き、社員の意識の変化を促しているという。社内向けの啓発のロゴやポスターの作製、イベントの企画、部門ごとの取り組みの支援に取り組む。
名坂直記グループリーダー(35)は「組織の文化を変えるのには10年はかかると言われている。がらっと変わることは難しく、小さな変化を積み重ねていく」と話す。
グループ企業の役員への研修を始めたのは24年からだという。よい組織風土につながる事例などを共有して「グループ全体で意識を高めるべく取り組んでいる」(広報担当者)としている。
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