経営者を目指す個人と後継者難で悩む中小企業などをつなぎ買収資金を提供する「サーチファンド」。その成功事例が出始めてきた。社食の決済システムを手掛けるエヌ・エス・システム(東京・中央)がその一つだ。三井物産出身の社長の就任以降、若手や外国人の採用に加え、自ら開発した人工知能(AI)を駆使した技術の導入などで事業を急拡大している。

東京・日本橋のオフィスビル街の一角。事務所拡大のための引っ越し作業に西沢泰夫社長も出て汗をかく。

海外人材積極活用

エヌ社は総勢60人足らずの中小企業だが、一日約50万食分の社食の精算システムを管理・運営する。無線自動識別(RFID)技術を活用して食器についたタグでメニューを読み取り、自動精算できるシステムを開発している。社員の健康管理のために食後の精算時などにカロリーや塩分量なども画面に表示される機能もある。

無人化やキャッシュレス化に対応できるため大企業での利用が進み、ソニーグループ傘下のソニーや旭化成、大日本印刷(DNP)や大手自動車メーカーなど約500社と取引がある。本社や工場など1000カ所の社食を日々管理する。

社長の西沢氏は三井物産の出身だ。同社在籍時にはシステム部門に在籍、インターネットが勃興した時期に米国に駐在した経験もある。

定年退職が近づき、「第二の人生」を考え始めたときにサーチファンドの存在を知った。サーチファンドは後継ぎがいない中小企業などに対して経営者を目指す後継ぎ候補(サーチャー)が投資家の支援を受けながらM&Aや事業承継で経営を主導する仕組みだ。

AIでフードロス大幅削減

西沢氏をエヌ社に仲介したのはFore Bridge(フォアブリッジ、東京・中央)で同氏は2022年に社長に就任。同ファンドからの出資とモルガン・スタンレーMUFG証券からのローンで資金調達し業容拡大を目指すことにした。

西沢氏はまず組織体制を刷新してマーケティングなどを強化したほか、若手エンジニアの採用で技術力を強化した。優秀な若手の幹部登用や外国人人材の採用も始めた。20代の従業員も増え、自ら面接して採用したインドや台湾出身の開発者も在籍する。

サービスのクラウド化にも取り組んだ。複数拠点のデータを一元で管理できるほか、他のシステムと連携して使うことができる。さまざまな経営施策を推し進め、社長就任から3年で売上高は2倍、営業利益は5倍に成長した。社食向けシステムでは業界トップだ。

直近ではAIを活用した新たなサービスを始める。多くの社食では食材の発注数などを決めるために、天候や過去の発注量などのデータを用いて予測をしている。しかし、それだけでは実際の注文数との誤差が生まれるため、営業を開始してから人の流れなどをみて現場の責任者が最終的な供給量を決めている。

ただ人の勘に頼るため「多い時は10%もの売れ残りがでる場合もある」(西沢社長)という。廃棄ロスを減らすため、配膳台の近くにカメラを置き、実際に配膳された食事や列に並ぶ人数などを計測し、AIで自動的に需要予測を修正するシステムを開発した。

営業開始から10分で想定よりもあるメニューの販売数が少なければ、営業終了までの最終的な需要数の予測も減らすなどして、フードロスをゼロに近づけられるようにした。導入企業にとってはフードロスの削減に伴い社食運営にかかる費用の削減にもつながる。

今後の目標としては新規株式公開(IPO)を目指す。大学や病院の職員用の食堂への導入や海外展開も検討している。

(小山美海)

広がるサーチファンド 後継者難、中小の救いに

後継者難などに悩む中小企業の事業承継を円滑に進めるための手法としてサーチファンドが日本でも広がり始めている。1980年代に米国で始まり、日本では2010年代以降に登場した。
サーチファンド・ジャパン(東京・千代田)によると24年までに活動を始めたファンド数は累計38本となった。そのうちの3本のファンドがエグジット(投資回収)している。山口フィナンシャルグループなど地方銀行を中心に設立が相次いでいる。
エヌ・エス・システムの西沢社長は三井物産でEC(電子商取引)モール事業を立ち上げた。その後、子会社を立ち上げ、社長として事業を継続、ヤフー(現LINEヤフー)に売却した実績を持つ。

サーチファンドは買収資金の工面や派遣後のサポートもするため、社長就任に伴う負担は少ない。西沢氏は同社のAI予測システムも開発、特許も取得した。その技量にひかれてインドなど海外からの入社希望者も増えている。将来的には社食システムの海外展開も計画している。
創業者の井川雅文氏(左、故人)と承継した西沢社長
米国では95年の買収時に45人だった従業員が2万人にもなった携帯電話の補償・修理会社アシュリオンの例もある。日本では技術力がありながらも後継者難で廃業する中小企業も多い。
経営者を目指すシニア層を仲介するサーチファンドはその救いの一手になる可能性がある。

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