「年収の壁」をめぐる協議を終え、署名した合意文書を手に言葉を交わす高市早苗首相(右)と国民民主党の玉木雄一郎代表=国会内で2025年12月18日午後5時、平田明浩撮影

 高市早苗首相(自民党総裁)と国民民主党の玉木雄一郎代表は18日、国会内で会談し、所得税がかかり始める「年収の壁」について、現行の160万円から178万円に引き上げることで合意した。国民民主が中間層も含めるよう求めていたことを踏まえ、最低限の生活費に課税しない「基礎控除」の上乗せの対象を、年収665万円以下の層に広げた。両党は同日、日本維新の会と公明党の実務者とも合意を確認。与党は19日に策定する2026年度税制改正大綱に盛り込む。

 会談後、首相は「給与所得の全納税者の約8割を対象に基礎控除の上乗せ措置を講ずる。多くの納税者にとって一定の手取りの増加が実現する」と述べた。玉木氏は記者会見で、26日に政府が閣議決定する予定の26年度予算案について「成立に協力していくことになる」とした。

 年収の壁を巡っては、自民、国民民主、公明の3党の幹事長が昨年12月、178万円への引き上げを目指すことで合意した。ただ、大幅な税収減が見込まれることから自民と当時与党だった公明は今年2月、160万円への引き上げにとどめ、対象者も低所得層に限っていた。

 今回の税制改正でも政府・与党は当初、物価上昇を反映し、低所得層限定で168万円への引き上げにとどめ、基礎控除を原則58万円から62万円に、給与をもらう会社員が対象の「給与所得控除」の課税最低限を原則65万円から69万円にそれぞれ引き上げるとしていた。

自民党と国民民主党の合意書(要旨)

 合意書によると、今後は生活保護基準を勘案して見直すことを基本としつつ、26、27年度については働き控えへの対応や物価高に苦しむ中・低所得者に配慮し、178万円に特例的に先に引き上げる。

 具体的には、現行で基礎控除(58万円)を37万円上乗せしている年収200万円以下の層に対し、給与所得控除も含めてそれぞれ5万円引き上げたうえで、対象を年収475万円以下まで拡大する。さらに、年収475万円超665万円以下の人は、現行10万円の基礎控除の上乗せを32万円分引き上げ、基礎控除は同じ水準とする。

 国民民主によると、今回の年収の壁の引き上げで、納税者の減税額は、25年度改正分と合わせて1人当たり2万7000~5万6000円程度となる見込み。6500億円の税収が失われて財政悪化が進むことになる。

 基礎控除などのあり方については、中・低所得者に税控除と給付を同時に実施する「給付付き税額控除」など新たな制度の導入を念頭に、3年以内に抜本的な見直しをするとした。

 このほか自民と国民民主は、高校生年代(16~18歳)の子どもを持つ親の税負担を減らす扶養控除について当面維持することで合意した。

 さらに両党は、自動車や軽自動車の取得時にかかる自動車税の「環境性能割」を廃止することも一致。政府・与党は当初、2年間停止にする方針だったが、廃止を求める国民民主の主張を受け入れた。首相は「負担を軽減、簡素化するため思い切って廃止することにした」と述べた。減収となる地方税約1900億円分については安定財源を確保するための具体的な方策を検討し、それまでの間は国の責任で手当てするとした。【井口彩、安部志帆子、鈴木悟、妹尾直道、原諒馬】

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