
埼玉県では2025年、スタートアップ育成の機運が高まった。県が7月に開設したイノベーション拠点の「渋沢MIX」は、専門人材による伴走支援などを展開し、県内外の様々なステークホルダー(利害関係者)を結びつけるハブとして機能し始めた。
県内の新設法人は高い水準にあるが、東京都などと比較すると見劣りする。少子高齢化による地域経済の地盤沈下を防ぐ一手として、金融機関も独自の動きを見せた。
渋沢MIXは埼玉県深谷市出身で、生涯にわたり500社以上の設立や育成に携わった実業家・渋沢栄一にならい、起業家や中小企業、金融機関などを結びつける機能を果たす目的で設立された。大野元裕知事が19年に1期目をスタートした当初から公約として掲げていた肝煎りの政策だった。
拠点ではスタートアップ支援やビジネスマッチングなどに精通した専門家を配置している。事業のモデル・計画のブラッシュアップ、出口戦略の立案など、起業家の様々な課題に伴走支援できる体制が構築されている。
ネットワーク構築にも注力しており、拠点では月に20回ほどのイベントを開催する。足元の実績を見ても、AI(人工知能)の活用セミナー、市町村の課題解決に向けたピッチ、アントレプレナーシップ(起業家精神)を養う子供向けイベントなど、ラインアップの豊富さがうかがえる。11月末時点で会員数は400社を超えた。

金融機関も本腰を入れる。埼玉県信用金庫が4月にさいたま市に開設した創業支援拠点の「Anonect(アノネクト)」は、会員向けのコワーキングスペースや会議室などを備えており、今秋にも本格稼働した。10月には芝浦工業大学の大学院生が商品アイデアを提案し、地元事業者らと製品化に向けた検討会が行われた。
埼玉りそな銀行は渋沢MIXに先駆けて24年に開業した「りそな コエドテラス」などの機能を強化。他の施設と連携し、会員が相互利用できる体制も構築しており、26年1月5日からは志木市と小川町の2施設を新たに加え、計4施設が相互利用できるようになった。
関東エリアの地方銀行やベンチャーキャピタル(VC)などが連携し、スタートアップを支援する組織「関東STARTUP RUNWAY」が秋に発足。武蔵野銀行や飯能信用金庫なども参画機関として名を連ねる。
帝国データバンクの新設法人の動向調査によると、24年に埼玉県で新設された法人は7057社。過去最高となった23年からは2.8%減だったものの、法人新設は増加傾向にある。一方、同年の東京都(4万7779社)などと比べると、多いとは言えない。
地域発のスタートアップは、雇用創出や税収につながることはもちろん、産業構造の転換を促し、取引先をはじめとした周辺企業の競争力向上にも寄与する。成長意欲の高い企業をいかに生み出すか、2026年も知恵を絞る一年となりそうだ。
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