
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。
1回に1億ドル以上を調達した「メガラウンド」の2025年12月の調達総額は129億ドルだった。投資家の関心がAIの導入拡大に伴うインフラの制約への対処に移っていることが示された。
12月にはメガラウンドの資金の大半はAIの商用展開に必要なシステムに流入した。主な分野はAIシステムを管理するセキュリティー基盤、エネルギー面のボトルネックに対処する次世代のチップアーキテクチャー、総合的な基盤を求める法人向けマルチモーダルモデルだ。
CBインサイツはメガラウンドを果たした全てのテックスタートアップについて詳細に分析したリポートを毎月発行している。資金が集中した分野や、勢いを増しているスタートアップ、AI部門に変革をもたらしつつある企業にスポットライトを当てている。

主なポイント
・投資家はAIを安全に展開する基本要件として、ID管理とデータセキュリティーに注目しつつある。「法人向けセキュリティー」分野の12月のメガラウンドは7件で、7件の調達額は計18億ドルに上った。AIシステムの普及により、導入企業がIDとデータの管理方法の見直しを迫られていることが背景にある。
人間のユーザーとAIエージェント両方のID管理サービスを提供する米セイヴィエント(Saviynt)はシリーズBで企業価値を30億ドルと評価され、7億ドルを調達した。一方、イタリアのExeinはシリーズCで1億1700万ドルを調達し、企業価値は2億9000万ドルになった。同社は製造業、医療、自動車のコネクテッドファームウエアの異常挙動をモニタリングし、IoT機器のIDの安全を確保する。
この分野への資金集中は、自律型エージェントやAI搭載機器などの展開により従来のセキュリティーシステムでは対応できない全く新たなIDが導入されていることが、AIの商用展開のボトルネックになりつつあることを示している。
・AI半導体の調達動向は、性能だけでなくエネルギー効率も重要な設計目標になり、電力容量がAI展開の新たな制約になっていることを映している。計算時の消費電力抑制に力を入れるAIハードウエア企業の平均商業成熟度は2.5点と低いが、12月のメガラウンドの調達総額は8億7300万ドルに上った。
アナログ・混合信号チップの設計でエネルギー効率の改善を目指す米アンコンベンショナルAI(Unconventional AI)がシードラウンドとしては過去最高の4億6500万ドルを調達したほか、エネルギー効率が画像処理半導体(GPU)よりも最大100倍高いとうたうアナログ処理ユニットを手掛ける米ミシック(Mythic)がシリーズDで1億2500万ドルを調達した。
こうした企業への資金の集中は、AIワークロードが電力供給とデータセンターの容量を圧迫するなか、投資家が理論上の高速化だけでなく現実の電力の制約内でAIを拡張できるアーキテクチャーを重視していることを示している。
・AIがテキスト以外のコンテンツ生成も刷新しているため、マルチモーダルモデル開発企業の勢いが増している。この分野の企業の平均モザイクスコア(スタートアップの健全性を示すCBインサイツの独自スコア)は889点に上り、テキスト、画像、動画を扱うモデルが1種類のデータを処理するモデルよりも多くの法人向け用途をつかむと投資家が確信していることを示している。
主な例は米ウォルト・ディズニーによる米オープンAI(OpenAI、モザイクスコア914点)への10億ドルの投資だ。ディズニーは200以上の自社キャラクターをオープンAIの動画生成AI「Sora(ソラ)」にライセンス供与し、オープンAIをファンが作成するコンテンツのインフラと位置付けた。
さらに、米ブラック・フォレスト・ラボ(Black Forest Labs、917点)などの企業は米アドビや豪キャンバ向けの画像生成モデルに特化する一方、中国の月之暗面(Moonshot AI、831点)や米ファル(Fal、893点)などはテキスト、画像、動画、音声を生成できる広範なモデルを手掛ける。
マルチモーダル機能の勢いは、データの種類に応じてベンダーを使い分けるのではなく、複数の種類のコンテンツを扱うプラットフォームに企業が集まると投資家がみていることを示している。
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