丸善ジュンク堂書店の川山英樹営業推進部長=大阪市で、安部拓輝撮影

 丸善ジュンク堂書店が店舗の本棚の一角を貸し出す事業を始めた。1号店となったジュンク堂書店大阪本店(大阪市)では3階フロアに本棚を並べ、自作の書籍や古本、手作り小物などを販売できる「棚主」を募集。SNSや報道で徐々に広がり、開設から1カ月あまりで約7割が埋まった。ニッチで薄利で非効率に見えるが、その目的は? 前店長で自身が棚主でもある川山英樹・営業推進部長(53)に聞いた。【聞き手・安部拓輝】

売り上げは全額「棚主」に

 ――どんな仕組みですか。

 ◆cuebooks(キューブックス)と呼ぶ専用区画にあるキューブ状の本棚を貸し切って自分の好きなものを陳列・販売できます。月額料金は棚の高さなどによって3000~1万円まで4種類。空いている好きな場所を選べます(初回登録料5000円)。売り上げは全額棚主さんに振り込みます。

 シェア本棚とも呼ばれ、大手書店チェーンとしては初めての取り組みです。古本を売る人がいれば、自作の本や小冊子、手作り小物を販売する人もいます。バスの運転手さんは運行する路線の風景を描いた冊子を販売しています。「名字のちがう妻との生活」をつづったかわいい冊子は500円で、私も早く続編が読みたいと思っています。実際に書籍を出版されている複数の作家さんも出店中です。

 私たち書店員はできるだけたくさん売るために顧客が知りたい知識に早くたどりつけるよう陳列しますが、棚主さんは必ずしもそうではない。弊社の書店員でもある福嶋聡は自身の著作と一緒に亡き祖父が書いた古い本なども並べています。在庫はインターネットで検索してもヒットしませんし、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは正反対でとてもアナログ。こんなに無駄だらけの売り場はないかもしれません。でも棚主さんもお客様も、それを楽しんでいます。

 ――本の楽しみは読むだけではないのですね。

 ◆読んでほしい本を並べて自分の世界観をシェアする。一人でも二人でもいい。共感の輪が広がることも、すごく楽しいのです。ここに来る人たちは棚の前に立っている時間がすごく長い。本を探しているというよりも、「こんな本を読んでいるんだ」と棚主さんの人柄と出会いに来ているように感じます。最近では神戸のブックマーケットに出店するために、棚主さんへ「あなたに何かきっかけをくれた本はありますか?」と尋ねてみました。その答えには棚主さんの人生が映し出されていました。

 ――シェア本棚を始めたきっかけは。

 ◆SNSが当たり前になり、何でもデジタル化されていく時代の中でこれからの書店をどうしていこうかと社内で議論する中で、名古屋と東京でシェア本棚に出店したことがある二人の女性社員がいると知ったことから始まっています。彼女たちにその面白さを聞き、そこに集まる本好きの気持ちを知る中で、大型書店にシェア本棚があってもいいのではないかと思って企画しました。1月30日にオープンしましたが、現在は7割程度の棚が埋まり、反響に驚いています。本屋の仕事をしてみたいと思っている人は意外に多いのですね。陳列に訪れて隣の棚のデザインからヒントを得て空間演出が進化していく様子も見られます。私の棚も見劣りしないように工夫したいです。

 ――何を目指しているのですか。

 ◆那覇市と東京でも出店を計画しています。体験価値を感じられる書店を実現させたいと考えています。インターネットやSNSによる発信も使いますが、それはあくまで道具。本棚を通じて人と人がつながり、自分の好きなことを交流する拠点として育てたいと思っています。

ジュンク堂書店

 1976年に神戸市の三宮センター街で創業。創業者の父、工藤淳の名前に由来する。喫茶コーナーを設け、読書しながら過ごせる書店をコンセプトとして京都や東京・池袋など全国へ出店した。大阪本店は99年に堂島アバンザに開業した。2015年に丸善書店と経営統合し、丸善とジュンク堂書店の二つの屋号を持つ書店グループとして全国約85店舗を展開している。

川山英樹(かわやま・ひでき)さん

 1972年、岡山県生まれ。大学を卒業後、97年にジュンク堂書店難波店(当時)でアルバイトとして働き始め、2006年から正社員。23年3月から26年1月まで大阪本店の店長を務めた。24年4月より現職。

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