ベッセント財務長官は半導体企業の対中国収入向けの「上納金」を他産業にも展開する可能性を示した=ロイター

【ヒューストン=大平祐嗣、ワシントン=八十島綾平】ベッセント米財務長官は13日、米半導体大手に中国輸出を認める見返りに売上高の15%を米政府に納めさせる仕組みについて「やがて他の産業でもみられるようになる」と述べた。発表したばかりの対中輸出の「上納金」モデルが他産業にも広がる可能性を示した。

トランプ米大統領は11日、エヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が中国向けに販売する人工知能(AI)向け半導体の収入のうち15%を米政府に支払う仕組みを発表していた。

ベッセント氏は13日の米ブルームバーグテレビのインタビューで「(新たな仕組みは)現時点で(半導体企業向けの)独自の事例だが、私たちはこのモデルをベータテストとして拡大することができるのではないか」と意欲を見せた。

具体的に想定している産業など詳細は明らかにしていないものの、対中輸出に依存してきた産業は多額の負担を強いられる可能性がある。

米議会の超党派でつくる「米中経済安全保障調査委員会」の報告書では、対中の技術競争の領域として先端半導体のほかにAIモデルや量子コンピューター、バイオ技術を挙げている。

いずれも米国が優位性を持つ分野で、米政府が関連産業の保護に乗り出す可能性がある。軍事や航空、宇宙といった安全保障に直結する産業も想定されそうだ。米国内では、エヌビディアとAMDの2社だけでも米政府が受け取る手数料が数十億ドルに達する可能性がある、とする試算も出ている。

米ホワイトハウスのレビット大統領報道官は12日の記者会見で、上納金の仕組みは、現時点ではエヌビディアとAMDの「2社に限った措置だ」としたうえで「法的な整合性や制度(仕組み)については米商務省がまだ調整している」と述べていた。

新たな手法をめぐっては政権内も一枚岩とは言えないのが現状で、国家の安全保障を切り売りする、ともとれる手法には批判も強い。

第1次トランプ政権時代に成立した輸出管理改革法(ECRA)では、輸出許可や申請書類の提出時などに政府は企業に対して「手数料を請求しない」と定めている。半導体輸出の許可と引き換えに上納金を請求すれば、この規定に反する可能性もある。

超党派でつくる米議会下院・中国特別委員会のクリシュナムルティ委員(民主党)は「安全保障に値段をつけた」と強く非難している。上納金の仕組みについて「法的根拠や(徴収する)資金の使途や、連邦議会に相談したうえで導入したのかどうかなど、トランプ政権が今すぐ答えなければならない重大な疑問がある」と述べた。

米政府は安全保障上の懸念を理由に、2022年にAI半導体を巡って厳しい対中輸出規制を導入した。エヌビディアは性能を落とした半導体の展開で規制を逃れたものの、米政府は4月にさらに厳しい規制を設けた。

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