トランプ大統領の言動は、これまで場当たり的な思いつきの連続に映ってきた。だが今回の議会閉鎖をきっかけに、実はシンクタンクの超保守的な提言をなぞっていることが分かってきた。

「『プロジェクト2025』のボート氏と話し合う」

トランプ大統領は2日、自ら発信したSNSの中でこう述べている。
 

トランプ大統領のSNSより
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「私は今日、『プロジェクト2025』で知られるラス・ボート氏と会い、ほとんどが政治的な詐欺に過ぎない民主党系機関の中から、どれを削減すべきか話し合うことになっている」

「プロジェクト2025」とは、保守派のシンクタンク「ヘリテージ財団」が2024年の大統領選挙に向けて提示した新政権の青写真である。全文はおよそ900ページに及ぶ分厚い政策集で、その柱は次のように整理できる。

第一は「大統領令を軸に行政を動かす」仕組みで、教育省の廃止やEPAの権限縮小など省庁再編が想定される。

第二に「公務員制度の再編」で、専門性より忠誠心を重んじる人事を打ち出す。

第三は「小さな政府とフラット税制」。法人税引き下げや規制緩和を進め、社会保障は縮小する。

第四は「治安と移民管理の強化」で、大規模な移民送還や死刑執行の加速を掲げる。

第五は「外交・安全保障の転換」。国防費拡大を前提に、NATOへの負担増要求や対中強硬姿勢を鮮明にし、多国間主義から距離を置く姿勢がにじむ。

「プロジェクト2025」の政策集はヘリテージ財団のHPに掲載されている

もっとも、その内容があまりにも過激で民主党の攻撃の格好の標的となったため、選挙中のトランプ陣営は「プロジェクト2025とは無関係であり、選挙キャンペーンを代弁するものでもなく、大統領と関連付けるべきでない」と声明を出した。計画を主導してきた責任者も退任し、プロジェクトは頓挫したかに見えていた。

だがここへ来て、大統領本人が「プロジェクト2025」との関わりを公言した。相談相手に指名したラス・ボート氏は、この計画の立案で中心的役割を担った人物として知られる。ニュースサイト「アクシオス」も「トランプが否定していた計画をいまや受け入れた」と伝えている。

トランプ政治は“権威的な体制”へ?

実際、第二期トランプ政権の政策を見れば「教育省の廃止」「公的医療制度の見直し」「不法移民の強制退去」など、プロジェクト2025で提言されていたものが少なくない。言ってみれば、トランプ政権は計画を否定しながらも、実際にはその提言を遂行していたと考えられる。

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そして今回の議会閉鎖に伴う連邦職員の大幅削減である。議会が機能不全に陥り政府が閉鎖に追い込まれた状況を、むしろ行政改革のきっかけとみなしたのではないか。連邦職員の削減はプロジェクト2025の中心的提言の一つだった。

その提言を大統領自ら公にし、実行に踏み切ったことは、プロジェクト2025の復活を印象づける出来事と映る。今後、気まぐれに見えた統治のスタイルは、「権限の集中」と「価値観による統制」に収束し、権威的な体制へと形を整えていくのかもしれない。

そうなれば、トランプ大統領の政治は「行き当たりばったり」ではなく、「シンクタンク監修の台本通り」だったということになる。結末がどうなるにせよ、少なくとも外国の傍観者にとっては筋書きが分かりやすくなった分、安心できる……のだろうか。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

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