米国とイスラエルによるイラン攻撃を受け、日本政府は中東にいる邦人の安全確保に取り組む。米国がイランの核施設を攻めるなど地域で軍事衝突が激しくなった2025年夏から退避の呼びかけを強めた。イランの在留者は4割ほど減った。
高市早苗首相は2日の衆院予算委員会で「考えうるあらゆるリスクを最小化するための取り組みの先頭になる」と強調した。木原稔官房長官は記者会見で、イスラエルの邦人を同日中にも陸路で退避させると発表した。現地の大使館がバスを運行する予定だ。1000人ほどおり、希望を募る。
茂木敏充外相は衆院予算委で、イランの在留邦人約200人の安否に関し「ほぼ全員と既に連絡を取っている」と説明した。同国に残っている人は家族がいるなどの永住者が大半だ。政府高官は「現時点でこれ以上の退避希望者はいない」と話した。

イラン周辺の9カ国には計7700人の邦人がいる。日本政府は軍事衝突の当事国であるイラン、イスラエルに加え、カタール、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)の邦人保護の取り組みを強化する。
中東には日本企業が多く進出する。経済産業省の2024年時点の調査ではUAEに91、イスラエルに15の現地法人がある。イランでは米国による経済制裁や情勢の悪化を背景に企業活動は低調だが、エネルギー資源が豊富な中東全体でみれば依然活発だ。
中東では紛争が絶えず、日本政府にとって邦人の安全確保は課題であり続けた。イランからの退避の機運を高めたのは、25年6月に起きた米軍による核施設への攻撃だ。
当時、イランの空港が封鎖されたため、日本政府は現地の大使館がバスを用意して隣国アゼルバイジャンに邦人を輸送した。攻撃の応酬が続いていたイスラエルからも同じ手段でヨルダンに運んだ。アフリカ東部のジブチに自衛隊輸送機を待機させ、空路輸送にも備えた。

イランには25年10月時点で邦人327人がいた。それから5カ月で4割ほど減った。26年1月中旬には情勢の悪化を受け、同国全域を最も高い危険レベルの4(退避勧告)に引き上げた。同じ時期、米軍基地などのあるサウジアラビアやヨルダンなど湾岸6カ国でも、危険情報の「レベル1」(十分注意)を出した。
日本政府が入念に注意喚起してきたのは、21年8月にアフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが首都を制圧した際の教訓があるためだ。
日本政府は当初、アフガニスタンから邦人や大使館職員ら500人の救出を想定した。しかし空港への民間機の離着陸が不可能になり、計画通り進まなかった。自衛隊は邦人を含む15人のみを輸送した。

自衛隊機を使う際、離着陸には当事国の同意が必要だ。いったん軍事衝突が起きると、現地で混乱が生じる。事態が悪化する前に自主的に退避してもらうことが肝要になる。今回、日本の対応が諸外国と比べて遅れているとの目立った指摘はない。
米国はイラン攻撃前日の2月27日、イランへの渡航中止を米国民に勧告した。イランにとどまっている米国人には直ちに退去を求めた。同日までに、イランから報復攻撃を受ける可能性のある他の中東諸国に駐在する大使館員とその家族にも、一部退避を許可した。
韓国は2月22日、自国民に対しイランから速やかに出国するよう退避勧告を出した。民間航空便の運航が止まる前に出国するよう求めた。
オーストラリアは新型コロナウイルス対策で20年からイランへの渡航を控えるよう勧告していた。国内で多発したユダヤ人を狙った襲撃事件でイラン革命防衛隊の関与が判明し、25年に駐豪州イラン大使を追放するなど外交関係は事実上止まっていた。
中国外務省は2月27日夜、イランへの渡航を控えるよう注意喚起を出した。在留中国人には安全対策を徹底し、速やかにイランを退避するよう勧告した。3月1日夜にはイランだけでなく周辺地域への渡航自粛も通知した。
ただ攻撃の一報が入ったあとの首相の判断には野党などから批判が出ている。首相は2月28日、予定していた石川県知事選の応援のため東京を離れた。
同日深夜に首相官邸入りした際に記者団に「先ほどまで党務出張していたが、道中でも逐次報告を受け、情報を把握して追加的に必要な指示を出していた」と釈明した。
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