韓国の李在明大統領(10日、ソウル)=聯合・共同

【ソウル=小林恵理香】李在明(イ・ジェミョン)政権が進める「司法改革」をめぐり与党と法曹界の対立が深まっている。特に反発が大きいのが「法歪曲罪」の導入で、法解釈をゆがめて判決を出せば判事や検事を処罰するとの内容だ。法曹界は三権分立を崩しかねないと懸念する。

「法歪曲罪」が施行された初日の12日、弁護士が日本の最高裁判所長官にあたる曺喜大(チョ・ヒデ)大法院長を警察に告発した。韓国メディアが伝えた。弁護士は曺氏が2025年に李在明大統領への無罪判決を破棄した際に手続き上の法的義務を満たしていなかったと主張した。

大統領選のまっただ中の25年5月、最高裁は公職選挙法違反に問われた李氏の無罪判決を破棄し、審理を差し戻した。このとき大法院長を務めていたのが尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権下で任命された曺氏だった。

判決は有力候補だった李氏に打撃を与える意図があったのではないかとの見方も浮上し、与党は最高裁に強硬な姿勢を示してきた。弁護士は事件と直接の関係はないという。

12日に施行された司法改革関連3法は国会で過半数を握る与党「共に民主党」の主導で可決した。3法は法歪曲罪の導入や裁判手続き上の新たな救済制度の創設、大法院判事の増員などを盛り込んだ。

「法の歪曲」については法令を誤った解釈で適用するなどの「意図的に裁判や捜査の結果に影響を与えた場合」と定めた。事件に関する証拠の隠滅や、違法な手段による情報収集も対象とする。有罪と認められれば10年以下の懲役または10年以下の資格停止処分を科す。

曺氏の告発について最大野党「国民の力」は党声明で「一つひとつの判決に告発が乱発され、裁判官が捜査の対象となる国では、法的安定性と正義が失われる」と批判した。一連の司法改革について「司法の独立性を損ない、三権分立の基盤を揺るがしている」と強調した。

法曹界からは「法歪曲罪」の規定が「抽象的だ」との指摘があがっている。裁判を不服とする人が判事や検事を告訴する手段になるとの憂慮がある。判事や検事が時の政権・与党の意向を忖度(そんたく)するようになりかねないとの懸念もある。韓国メディアによると法歪曲罪を導入している先進国はドイツやスペインなど一部に限られる。

司法改革で、韓国大法院の判事は現在の14人から26人に増員する。2028年から3年間、毎年4人ずつ増やす見通しだ。増員に加え、任期終了に伴う補充もあわせれば22人を李氏が任命することになるため、司法の独立性を損なう恐れがあると反発の声が出ている。

裁判所の判決が基本権を侵害した可能性がある場合には、憲法裁判所に救済を求めることができる制度も新設する。韓国大法院の確定判決後にも適用する。審理の結果、違憲と判断されれば、判決を取り消すことができるよう改正した。

韓国の最高裁判所(ソウル)

司法改革の背景にあるのが与党と韓国大法院の対立だ。韓国ではこれまでも保守派と革新(進歩)派が対立する政治構図のもとで、大統領が一部の人事権を持つ司法機関に政治的な攻撃の矛先が向けられることが少なくなかった。

李政権は24年12月の「非常戒厳」のような事態を再び繰り返さないためにも、検察や司法の改革が必要だと説明してきた。25年9月には政界捜査などで強い権力を持っていた検察庁の廃止を決めた。

一方で司法改革は李氏自身が抱える複数の裁判に向けたものとの見方もくすぶる。韓国の大統領は規定で、内乱罪と外患罪以外では在職中に刑事訴追を受けないとされている。李氏は就任前に複数の刑事裁判を抱えていたが、現在は中断状態にある。

「法の支配」の揺らぎは韓国に限った話ではない。非営利団体ワールド・ジャスティス・プロジェクト(WJP)の25年の調査では対象とした国の68%で法の支配指数が下がった。権威主義化が進み司法の独立が損なわれる例が増えていると指摘した。

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