
日本の空から消えた国特別天然記念物、コウノトリが、再び姿を見せた2005年の初放鳥から24日、20年を迎えた。里山で餌を取る絶滅動物の野生復帰は、人里で野生との共生を再び試みる未知の歳月を重ね、野外のコウノトリは24日現在、初放鳥の5羽から561羽になった。
初放鳥の日、野生復帰の拠点施設、兵庫県豊岡市にある県立コウノトリの郷(さと)公園で、約3500人が白と黒の翼で羽ばたき、空を旋回する姿を見つめた。日本の野外から絶滅した1971年から30年余り。65年から続けた試行錯誤の保護増殖を経て、国内最後の生息地から野生への復帰が始まった日だった。
2年後には放鳥ペアから国内で43年ぶりに野外ヒナが誕生。韓国などを含む国内外への飛来や県外での繁殖と続き、数も繁殖地も増え、25年は新たに県内の上郡町、新温泉町、石川県の珠洲市、能登町、島根県奥出雲町、水戸市が加わり、13府県の54の巣から145羽が飛び立った。
餌確保策で給食にも変化
このうち最多の13巣の豊岡市では、餌の確保が元々課題だった。乱獲や生息する湿地・湿田の減少、農薬の大量使用などで餌の生き物が減り、絶滅したとされるからだ。
餌のカエルやオタマジャクシなどが育つよう工夫した無農薬・減農薬の米作り「コウノトリ育む農法」を行政や地元JAが進め、なにより農家が意を決して取り組み、市内の作付面積は、初放鳥の05年度の42ヘクタールが24年度は512ヘクタールに広がった。
この間に市立学校の米飯給食は年間を通じて減農薬の「コシヒカリ」に代わり、さらに無農薬の多収量品種「つきあかり」に、24年度の場合は4カ月間切り替えられた。作付面積、収量の増加も見込まれ、全量を賄うまであと一息という。

一方、全国で25年は8月末までに救護13羽と死体収容11羽があり、救護は防獣ネットへの絡まりなどのほか、6羽が電柱・電波塔での繁殖に伴う卵の救護となり、巣塔の整備もさらに必要な状況だ。
郷公園にキャンパスがある兵庫県立大大学院地域資源マネジメント研究科の出口智広准教授によると、救護については営巣、繁殖の場所を探して「成鳥になっても放浪する影響もある」という。25年の全国の繁殖ペア数は24年から2組増の64組にとどまり、野外個体のうち多くが餌場も含め営巣適地を求めて広く移動し、「けがをする可能性が大きくなっている」と指摘する。
「国挙げてさらに関与を」

また、個体識別用の足環(あしわ)の装着作業は県内22カ所以外にも、県外36カ所に獣医師、飼育員ら郷公園職員が日帰り、宿泊で延べ108人が出向いた。個体識別は近親ペア対策として初放鳥以来欠かせず、数に比例して業務量が増えている。
郷公園の上甫木昭春(かみほぎあきはる)園長は「野生のコウノトリは想定ペース以上に増えてきた。しかし、餌環境など地域の生態系はまだ追いついておらず、コウノトリを通じて市民や企業が地域をどのような姿にしていくのかが、大きな課題になる。業務量の増加も新たなステージに到達した象徴と思う。国を挙げて方向性を世界に示し、さらに関わる時点に来ているのではないか」と話した。【浜本年弘】
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