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<発症リスクが最大54%低下...市販サプリメントの成分が有効である可能性をアメリカの研究チームが発表>
皮膚がんの予防に、市販のあるサプリメントが効果を示す可能性が浮上している。
アメリカのヴァンダービルト大学医療センター(Vanderbilt University Medical Center)の研究チームは、ビタミンB3の誘導体である「ニコチン酸アミド(ナイアシンアミド)」を1日2回、1回500mgの量で30日以上にわたって摂取したグループは、摂取していないグループに比べて皮膚がんの発症リスクが14%低下したと発表した。
また、皮膚がんの経験者では、54%ものリスク低下が見られたという。
研究チームは、アメリカの退役軍人3万3822人の健康データを解析。そのうち1万2287人がニコチン酸アミドを摂取しており、残る2万1479人が摂取していなかった。なお、過去に皮膚がんを複数回発症していた被験者は、ニコチン酸アミドの予防効果は相対的に低下していた。
本研究の責任者であるリー・ウィーレス医師は次のように述べる。
「本研究は、2015年以降に実施された複数の臨床試験の延長線上に位置づけられます。これらの試験で、ニコチン酸アミドに皮膚がんリスクを下げる効果があることが示されていました。
(...)ただし実際の臨床現場では、こうした予防策の導入が遅れがちで、私自身を含めて多くの皮膚科医は、それまでの先行研究で報告されていた『23%のリスク低下』という数値は、やや楽観的すぎる印象を持っていました」
今回の研究では、2015年の臨床試験の60倍以上の被験者を対象としており、投与前に皮膚がんを何度発症していたかという点も踏まえた解析も行った。さらに、他のリスク要因もコントロールしたという。
なお、今回の調査で対象とされたのは経口摂取のニコチン酸アミドであり、同じビタミンB3でもナイアシン(ニコチン酸)とは異なる物質であることにも留意が必要だ。その上でウィーレス医師は次のように述べる。
「30日という短期間の投与でも効果が見られましたが、長期間にわたる摂取を行っていた患者では、それ以前に皮膚がんを複数回経験していた場合が多く、治療期間の『最適な長さ』については依然として課題が残っています」
DNA修復と日焼けダメージの蓄積抑制が鍵
ニコチン酸アミドが皮膚がんのリスクを下げる仕組みについて、「DNA修復の促進と紫外線によるダメージの蓄積抑制」に関連している可能性があると研究者らは考えている。
「過去に1〜2回、皮膚がんを経験した患者の場合は、日光曝露によるダメージが比較的少ないという間接的な指標になり得ます。この段階でDNA損傷の進行を抑えることで、新たな皮膚がんの発生を抑えられる可能性があります」(ウィーレス医師)
逆に、すでにそれ以上の複数回にわたって皮膚がんを発症し、「フィールドがん化現象(field cancerization)」と呼ばれる前がん細胞の状態にある場合は、わずかなダメージでも新たな皮膚がんを発生しやすくなり、ニコチン酸アミドの効果は限定的になるという。
日中の外出を避ける、日焼け止めを塗る、UV加工の衣類を着用するといった、従来の紫外線対策は今後も重要であるとしたうえで、ニコチン酸アミドを「もう一つの予防ツール」として研究チームは評価する。
「ニコチン酸アミドは、シンプルなビタミンB3誘導体でありながら、皮膚がん予防において実用的な選択肢として有望です」と語るのは、オーストラリア・クイーンズランド大学フレイザー研究所の主任研究員のユスフ・モハメッド博士だ。
「とくに[表皮の角化細胞が悪性化して発生する]有棘細胞がん(ゆうきょくさいぼうがん:SCC)において顕著な効果が見られ、リスクは20%以上低下しました。なかでも、最初の皮膚がん発症後すぐにニコチン酸アミドを摂取した患者では、リスクが約50%も低下しています。このことから、摂取開始時期の早さが重要な鍵であることが示唆されます。
(...)臨床医にとって、ニコチン酸アミドの魅力は入手のしやすさ、安全性、副作用の少なさにあります。レチノイド系や侵襲的治療法とは異なり、ニコチン酸アミドは安価かつ市販で購入可能な選択肢であるためです」
一方で、臓器移植を受け、免疫抑制療法を受けている患者に対しては顕著な効果を示すことはなかった。ただし、早期導入を条件に限定的な有効性が見込まれる可能性はあるという。
「この結果は、長らく過小評価されてきたニコチン酸アミドによる低リスクの介入法が、特に既往歴のある患者にとって皮膚がん予防の一助となり得るという、多くの皮膚科医が指摘してきた見解を裏付けるものです」(モハメッド博士)
今後の課題として、追跡研究による実証と、効果の高い被験者「スーパー・プロデューサー」の特定による個別的介入戦略が必要だとウィーレス医師は指摘する。
アメリカでは、生涯のうち約2割の人が皮膚がんを発症するとされており、研究者らは今回の研究が予防の新たな手段として活用され得ると指摘する。なお、ニコチン酸アミドは市販のサプリメントであり処方箋は不要だが、服用の際には医師や薬剤師に相談することが推奨される。
【参考文献】
Breglio, K. F., Knox, K. M., Hwang, J., Weiss, R., Maas, K., Zhang, S., Yao, L., Madden, C., Xu, Y., Hartman, R. I., & Wheless, L. (2025). Nicotinamide for Skin Cancer Chemoprevention. JAMA Dermatology.
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