
ブルガリが国立新美術館(東京都港区)で展覧会「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」を開催中だ。日本では10年ぶりであり、かつ過去最大規模の展覧会となる。個人蔵も含む貴重なコレクションから選び抜かれた、創業した1884年から現代に至る約350点のジュエリーを展示。展覧会を監修したブルガリ ヘリテージ キュレーター ディレクターのジスラン・オークレマンヌさんに、見どころを聞いた。
――今回の展覧会で伝えたいことは何ですか。
「日本で開催される最大規模の展覧会になります。ブランドの展覧会というより、色彩をテーマにした、より文化的な展覧会です。ブルガリは色彩に情熱を注ぐハイジュエリーのブランドです。日本で開催するにあたり、過去と現在、イタリアと日本、芸術とハイジュエリーをつなぐ、色彩という普遍的なテーマを架け橋にしたいと考えました」

――特に注目してほしい作品はありますか。
「まさに『コンバーチブル・ソートワール=ブレスレット』がふさわしいジュエリーだと思います。展覧会は3つの章で構成されていますが、この作品は展覧会を総括する存在だと思います。第1章は『色彩の科学』をテーマにし、あらゆる色を分析しています。この作品には様々な色が込められています。第2章は『色彩と感情』を扱っています。ハート形を真ん中に据えていて、そこにはラブストーリーが込められています。第3章は『光のパワー』についてで、光が透過することによって色が輝く様子を説明しています」

――色彩がブルガリのジュエリーの中心になったのはなぜですか。
「第2次世界大戦後の20世紀半ば、当時のクラシックなハイジュエリーは、フランス、英国、米国の単色のジュエリーが中心でした。ダイヤモンドにプラス何か1色が一般的で、2色を用いるものは珍しい時代でした。また、ハイジュエリーで夜会用のものであれば、金属はプラチナが定番でした」
「そうしたなかで、ブルガリはイタリアらしさ、ローマらしさ、地中海らしさを表現したいと考え、様々な色彩を取り入れました。より多くの色を組み合わせ、1950〜60年代には、色彩がブルガリの代名詞になっていきます。温かみや躍動感など、ほかとは違う表現が生まれていきました。太陽の色であるイエローゴールドも用い、新たな色彩をもたらしました。こうしてブルガリのスタイルがこの時期に確立されたのです」
――代表的な宝石のカット「カボションカット(cabochon cut)」を用いたジュエリーも多く展示されています。どんな技法ですか。

「カボションは古いフランス語に由来し、カボシュ(caboche)は頭を意味します。つまり、カボションカットは、底は平らだけれど、上側は丸みを帯びています。ブルガリが好む立体的なボリューム、大胆なデザインを表現できます」
「昔の宝石職人は(多くの平らな面を組み合わせて光の反射や屈折によって輝きを生み出す)ファセットカットの技術がなかったため、カボションカットが、素材をなるべく削らずに体積を最大限に生かしながら、深みのある豊かな色彩を引き出す最良の方法でした。15〜17世紀にかけて、カット技術は進化を遂げ、現代的なファセットカットが登場します。ファセットカットは、特に、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドといった四大貴石に施されるようになり、カボションカットは、あまり高価でない石に施されることになりました」
「20世紀半ばには、ブルガリはカボションカットが長く美しい歴史を持つことを理解していましたが、ハイジュエリーでは実際に使用されることはなく、ファセットカットの方がより多くの光をもたらすと認識されていました。一方で、カボションカットはより深い色彩を生み出します。ブルガリは色彩性を高めたいと考え、革命的な試みに乗り出します。何世紀にもわたって忘れられていた、カボションカットを再導入したのです。そしてそれが、他に誰もやっていなかったからこそ、ブルガリの代名詞となったのです。ボリューム感を出し、大胆でデザイン的にもおもしろいものを作り出すことができます」

――ヘリテージ キュレーター ディレクターとはどんな役職なのでしょうか。
「様々な業務を担っています。ひとつは、アーカイブの整理と研究です。ブルガリファミリーの所蔵してきた写真やデザイン画、歴史に関わる書類などを、評価して整理することです。2つ目は、コレクションです。ローマに『ドムス』と呼ぶギャラリーがあり、ここでは、50〜60の作品を入れ替えて展示しています。このコレクションを充実させることです。そして3つ目が、教育と情報の発信です。アーカイブやコレクションから得たブルガリに関しての知識を、インタビューを通じて、またトレーニングや教育の場を通じて、伝承することです」
――日本にも多くの歴史ある企業がありますが、そのような職業は珍しいです。歴史を世の中に伝える方法とは。
「メゾンに長い歴史がある場合、アーカイブと歴史を守っていくことは大事なことです。悲しいことに、ヨーロッパでも、それらを保存せず、時には手放してしまう企業を目にしてきました。歴史はメゾンのアイデンティティーの一部です。私は美術館の世界に身を置くものとして、歴史家が画家や芸術家を扱う際の方法論や体系的な手法は、企業やメゾンに対しても適用できると確信しています。日本には素晴らしい美術館があり、芸術や工芸の分野でも優れた専門家がいます。彼らの手法が、保存と継承に有効だと思います。過去を守ることが、未来へ伝えていくための道だからです」
(井土聡子)

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