年金制度への不信感が蔓延しているのは日本だけではないようだ fadfebrian-shutterstock

<多くの若年層は、自身が年金を受け取れる頃まで年金制度が存続しているとは思っておらず、他の世代と異なる資産形成を行っている>

将来のため、必死に年金資産を築く時代は、もう終わり――。Z世代はそう考えているようだ。

Z世代は、将来の保障を担う社会保障制度を信用するよりも、今この瞬間に貯蓄を楽しむことに関心を寄せている。

【動画】Z世代が行う将来への備えとは


1997~2012年に生まれたZ世代は、従来の「リタイア」やその後もらえる年金を、自身の金融計画に入れていない。代わりに、柔軟な働き方、フリーランス、手軽な投資、リアルタイムでの資金管理といった手段を通じて、自らの道を模索している。

専門家によると、親世代と異なる現在の経済状況こそが、若年層を年金制度から遠ざけている主因となっている。

イギリス唯一のアクチュアリー(保険数理人)専門資格を認定する職能団体、アクチュアリー会(IFoA)によると、イギリスのZ世代の46%が、「自分が引退する頃には国家年金制度は存在していない」と考えている。

アメリカでも同様で、多くの若者が年金制度に対して不信感を抱いている。自分が年を取る頃には社会保障制度の資金は枯渇していると感じているのだ。

投資会社R.W. ロジェ&カンパニーの最高投資責任者であるスティーブン・ロジェは「Z世代が『年金から離れた』というよりも、そもそも民間セクターでは伝統的な確定給付型年金がほとんど姿を消している。現時点で年金を提供している企業は15%程度しか存在しない」と本誌に語った上で、「Z世代の多くは年金を拒んでいるわけではない。年金という選択肢自体が存在しない雇用市場にいるだけだ」と指摘した。

「若者がなぜ公衆電話を使わないのかと問うようなものだ。公衆電話というインフラ自体が、彼らが使う前に取り除かれてしまったのだから」

完全リタイアは現実的ではない?

Z世代が考える将来の経済状態は、過去の世代が考えてきたものとは全く異なる。

ラズボーンズ・グループによる2025年の分析によると、現在25歳のイギリス人が65歳で快適な隠居生活を送るためには、長期的なインフレの影響を考慮に入れると、310万ポンド(約6億2000万円)が必要となる。


Z世代にとって65歳で完全リタイアするという見通しは、ますます現実味を失っている。実際、イギリスのZ世代の47%が、完全リタイアできると思っていない。

アメリカでも同様の傾向が見られる。ペイロール・インテグレーション社とダイネータ社による調査によると、Z世代のアメリカ人労働者のほぼ半数が、自分の退職後の貯蓄にすでに手を付けているという。

米ネブラスカ州オマハを拠点とする、保険・金融サービス会社ミューチュアル・オブ・オマハの「プロテクション・インデックス・レポート」によると、Z世代は他の世代に比べて、長期的な財務目標について真剣に考えていないと答える割合が著しく高い。

信用スコアに問題がある人向けのウェブサイト、BadCredit.orgの消費者金融専門家であるエリカ・サンドバーグは、「伝統的な年金制度からの転換は、世代的な問題というよりも、構造的な変化だ......以前は、雇用主が従業員に年金を提供することで、退職者は生涯にわたって保証された小切手を受け取っていた」と本誌に語った。

「しかし今では、ほとんどの企業が401(k)(アメリカにおける確定拠出型の企業年金制度)を提供している......従業員自身が税引前の収入を拠出し、自ら投資を管理しなければならないのだ」

Z世代が重視するものとは

Z世代の多くは、年金によって保障されていた安定の喪失を嘆くだけでなく、新たな安全な資産モデルを自ら構築しようとしている。

R.W. ロジェ&カンパニーのロジェは、Z世代が「携帯性」と「柔軟性」を重視していると指摘する。


「Z世代は、ミレニアル世代がリストラや企業の再編によって痛手を受ける姿を見てきた。だからこそ、彼らは『約束』よりも『携帯性』を選んでいる」とロジェは語る。

「年金は通常、転職すると引き継がれないが、401(k)であれば引き継げる」

また、ロジェは、若者たちは、短期、中期、長期といった時間軸を意識しながら、退職後の貯蓄に取り組んでいると指摘する。

「短期での資金は、安全に保つ。中期の資金は、インフレを上回る利回りを見込みつつ、株式のように大幅な値下がりを起こしやすい資産は避けて運用する。長期の資金は、低コストのインデックスファンドで複利運用する。時間軸の区分けは、人間が陥りやすい『損失回避』や『群集心理』といったバイアスを抑制する」

若者の間で広がる「マイクロリタイア」

このような明快さが、Z世代がミレニアル世代よりも早く401kへの拠出を始める一因となっているのかもしれない。
ロジェによると、Z世代はX世代(1965~1980年頃に生まれた世代)よりも退職準備が進んでいるという調査結果もある。Z世代がリタイアというライフステージの変化に対して懐疑的であることを踏まえると、意外な結果と言える。

同時に、若手の社会人の間には「マイクロリタイア」と呼ばれるライフスタイルが広まりつつある。


「マイクロリタイア」とは、Z世代の一部が転職の合間に旅をしたり、情熱的なプロジェクトに取り組んだり、ただ休息したりすることを選ぶことを指す。70代まで待ってから余暇を楽しむのではなく、「今、この瞬間」に余暇時間を確保するのだ。
証券取引を行うジャスト・トゥー・トレード社の上級エコノミスト、イヴァン・マルチェナは、Z世代のこのような姿勢は、既存制度への深い不信によっても形成されていると本誌に語った。

「伝統的なリタイアモデルは、現代の現実に合っていない......生活費の高騰、学生ローン、不安定な住宅市場。このような背景の下、多くの人は30年後、40年後のために貯金するより、今を生き抜くことに集中せざるを得ない」

そして、「Z世代は、手元に現金を置いておくことや、株のようなすぐに換金できる資産に貯蓄を投じることに安心感を抱いている」と指摘した。

さまざまな投資手段へアクセスしやすくなったことも大きい

Z世代は、変化し続ける経済環境によって伝統的な年金観を見直すことを余儀なくされている。

しかし、技術の進歩がその選択を後押ししたのも事実だ。


マルチェナは、「今では、年金以外にも多くの投資手段がある上、(それらの投資に)以前よりずっとアクセスしやすくなっている」と指摘。「30年前に株や債券に投資しようと思ったら、煩雑で長い手続きが必要だったが、今では、株も債券も暗号資産も、30分あれば投資できる時代になった」と説明した。

「Z世代は株や債券への投資を好む。その分、年金に回す資金が少なくなっている」

ロジェもまた、Z世代は「年金に無関心なのではなく、むしろ鋭く見極めている」のだと語る。

「彼らは、旧来の年金制度に甘えていた世代よりも、金融リテラシーが高く、(金融資産形成に)積極的に関与している......投資に対する姿勢と、長期的な投資視点、優れた金融技術を兼ね備えている点を踏まえると、Z世代は長期的には、(他の世代より)良い結果を得られる可能性すらある」



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