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<「自立」はどこから始まるのか? 「本当の分離」が始まるクオーターライフの核心について>

人生の4分の1にさしかかる、20歳から約20年間の「成人期序盤」を指す「クオーターライフ」。人生や将来の選択で悩みやすい、この時期をどうやって乗り越えていくのか? 

成人期専門の心理療法士(サイコセラピスト)のサティア・ドイル・バイアック氏による話題書『クオーターライフ 20代で知っておきたい、クライシスを生き延びる知恵』(日経BP)の第6章「離れる」より一部編集・抜粋。


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精神分析学は昔から、過去の依存や期待から意識的に離れる大切さを認識しているが、そうした取り組みは、中年期に分離の大切さを理解したときに始まる、とされている。

でも、それは誤解だ、と私は思う。私が繰り返し目にしてきたように、この「分離」の取り組みは、思春期から遅れてやってきた欲求であり、人類が成人の儀式を失ったときに失われた取り組みなのだ。つまり、中年期の特徴というより、クオーターライフの発達に欠かせない要素だ。

クオーターライフを描いた童話や神話はおおむね、主人公(ヒーロー)が何か──たいてい形のないものや妙に象徴的なもの──を求めて家を出る、というある種の分離から始まる。

時には、期待に応えられずに家を追い出されたり追放されたり、道に迷って行き詰まり、家に戻れなくなるパターンもある。現代のクオーターライファーたちも、最初の物理的な分離に関しては、よく似たエピソードを持っている。

分離を迫られたにせよ、自ら選んだにせよ、クオーターライファーは「自分の道を見つけたい」という熱い衝動に駆られる。「離れたい」という本能のおかげで、人は世の中に一歩踏み出し、家族からも、おそらく教会からも、コミュニティや仲間や今の親密なパートナーからも離れて、さらなる成長や自立を模索するのだ。

こうした物理的な分離を果たそうにも、文化が現実的・金銭的な後押しをしてくれない場合は、先送りせざるを得なくなる。

とはいえ、「離れたい」という本能を無視すると、不満や閉塞感が募る。人には、自分の人生を始めたいという内なる要求があるからだ。

クオーターライファーには、「論理的な決断」や現実的な制約など物ともせずに、飛び出したい、探求したい、好奇心を満たしたい、という衝動があるのだ。それは憧れであり、うまく言葉にしたり説明したりできない欲求だ。

子ども時代の家や人間関係から離れたいという欲求を抑えつけると、満たされない飢えのように、さらにがつがつ貪欲になるだろう。その猛烈な飢えは、苦しみ、パニック、大騒ぎ(ドラマ)、不安、時には暴力さえもたらしかねない。


部外者はそんな状態に陥ったクオーターライファーに、「手がつけられないな」「でまかせばかり言う」などと考えるかもしれないが、本人も謎の寄生虫に牛耳られている気分でいる。自分ではどうしようもない激しい衝動が、水面下からせり上がってくるのだ。

その感覚が、怖くてたまらないと言う人もいる。彼らは未知のものを恐れ、安全地帯(コンフォート・ゾーン)から離れるのをためらって、自分を導いてくれる愛する人たちがいずれこの世を去ってしまう、とくよくよ悩んでいる。子宮を追われた赤ん坊のように、一人で生きていけなかったらどうしよう?と。

だが、すでに実家をあとにしたクオーターライファーならおわかりのように、そんなものは第一歩にすぎない。

本当の分離とは、人間関係における経済的・感情的・心理的な依存を少しずつ手放しながら、自分を変える長いプロセスに取り組むこと。

健全な分離に必要なのは、新しい境界線を設け、コミュニケーション能力を高めて、自分が自分をどう認識するのかに親やきょうだい(や数えきれないほどの他人)が陰に陽にどんな影響を及ぼしているのかを洗い出すこと。目標は自分を知り、自立し、自分を愛し、自分を信じ、他人との親近感を深めること。

それは簡単にできることではないし、いくぶん変化が起こったと実感するまでには、何年もかかるだろう。


サティア・ドイル・バイアック(Satya Doyle Byock)
認定心理療法士(サイコセラピスト)・ライター。「The Salome Institute of Jungian Studies(サロメ・ユング心理学研究所)」所長。分析心理学、歴史、社会正義の擁護に根差した仕事に従事。オレゴン州ポートランド在住。

 『クオーターライフ 20代で知っておきたい、クライシスを生き延びる知恵』
 サティア・ドイル・バイアック[著]/長澤あかね[訳]
 日経BP[刊]


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