採択状を手にする中川斉史・徳島県教育長(右)と橋爪淳・文部科学省大臣官房審議官=徳島市万代町1の徳島県庁で2025年10月10日午前11時15分、植松晃一撮影

 産学官協働で高校生らの海外留学を後押しする動きが地方に広がりつつある。文部科学省が行う、全国の大学生や高校生ら対象に取り組む海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」の「徳島県版」とも言える「拠点形成支援事業」に9月、徳島県内の官民で作る協議会が採択された。高校生らの募集は12月にも始まり、2026年7~10月ごろ、海外を目指す。高校生らが留学する方法は複数あるが、この事業の特長や魅力とは――。

高知などに続き

 「トビタテ!留学JAPAN」はグローバル人材を養成しようと、文科省などが13年度に開始した支援制度で、企業の寄付金などを活用し、高校生や大学生などに返済不要の奨学金を支給してきた。22年度までの第1ステージ(日本代表プログラム)では約9500人の若者が海外経験を積んだ。

 23~27年度の第2ステージ(新・日本代表プログラム)では、国主体の事業に、都道府県が事業主体となる「拠点形成支援事業」が加わった。事業は高校生や特別支援学校高等部生徒らが対象で、文科省サイトでは「高校生等(など)のグローバル人材育成に取り組む留学モデル拠点地域を全国に作る」などと狙いを挙げる。

 協議会事務局の県教委は「徳島の未来を拓(ひら)くグローカルリーダー育成事業」と位置づけており、産業振興や過疎、まちづくりなど身の周りで感じた課題について、解決策や対応策を海外で考える若者を養成したい考えだ。

 「拠点形成支援事業」には、23年度に滋賀、静岡、石川、24年度に高知、福島、25年度に京都、富山、群馬の各府県が選ばれており、徳島は9府県目だ。

渡航機会が拡大

採択状授与式の後、写真に収まる後藤田正純・徳島県知事(前列右端)ら。後列は寄付金を約束した協賛企業の幹部ら=徳島市万代町1の徳島県庁で2025年10月10日午前11時33分、植松晃一撮影

 「勇気、行動力をもって一歩を踏み出して」。10日に徳島県庁であった採択状授与式では、県出身で拠点採択を呼びかけた電子書籍取り次ぎ大手「メディアドゥ」(東京都)の藤田恭嗣(やすし)社長が、中川斉史・県教育長や橋爪淳・文科省大臣官房審議官、後藤田正純知事ら関係者を前に、若者への期待を述べた。

 関係者が取り組みに力を入れるのは、グローバル化が進む一方で生産年齢人口が減少している状況などを背景に、国際社会との連携や調和の重要性が将来的に増すとみて、次世代を担う高校生らが留学を経て成長する機会を重視するからだ。

 ただ、全国で717人の高校生らが採用された今年度の「全国版」で、県内から選ばれた高校生らは10人にとどまる。「徳島県版」では県内の学校在籍者から50人程度の募集を予定しており、県内の高校生らには海外渡航の機会が広がることになる。

返済不要の奨学金

 事業採択で、事業の広報や説明会開催が進められる今年度、国と県が折半し、250万円規模の事業費が投入される。そして、若者が渡航する26、27年度には、各3000万円の事業費で事前・事後研修などを含めて実施する方針だ。年最大1250万円の国費を見込めるが、残りは県費と民間の寄付金で賄う予定だ。採択状授与式では、寄付意向を表明している地元の金融機関やメーカー、財団など14組織のうち12組織の関係者も見守った。

 希望する若者は「留学計画」などの書類を作り、所属校から事務局へ応募する。留学計画の内容や面接を経て派遣留学生に決まると、奨学金として家計状況により月額16万~6万円が、また渡航費などを念頭に、留学準備金がアジア地域で15万円、アジア地域以外なら25万円支援される。いずれも返済不要という魅力的な事業だ。

ネットの経験談も参考に

 では、応募には何が必要か。募集要項は受け付けを始める12月上旬をめどに準備中だが、欠かせないのが、どこでどんな探究に取り組むかや、渡航中の滞在先なども盛り込む留学計画だ。留学計画を含む書類審査と面接で採用者が選ばれる見通しだ。

 留学計画作りで参考となるのは、経験者の体験談などだが、身の周りにいない場合、県高校教育課の担当者は「(在籍校で)英語科の教員やALT(外国語指導助手)に相談する方法も」と話す。また、ネットで「トビタテ!留学JAPAN」をキーワードに検索すると、「全国版」事業に採用されて海を渡った若者のSNS(交流サイト)投稿が多くある。応募過程を振り返った投稿もあり、参考になる。

 そして、複数みられるのが、海外で何を学びたいのか、はっきりさせることを勧める投稿だ。やりたい内容が具体化すれば、行き先選びはもちろん、留学計画作りも進めやすくなり、面接対策といった点でも自信になる。「徳島県版」でも、学業成績や語学力を問わない見通しで、何を探究したいか、なぜ外国なのか、周囲を説き伏せられるような熱い思いを持っていると海外が近くなりそうだ。

イタドリの探究も

文科省担当者(左)から「拠点形成支援事業」の採択状を受け取る地域協議会の会長を務める中川斉史・徳島県教育長=徳島市万代町1の徳島県庁で2025年10月10日午前11時15分、植松晃一撮影

 徳島県より1年早く拠点形成支援事業に採択され、今年が若者送り出し1年目の高知県では、30人程度の募集に、20校50人が応募した。このうち31人が7~10月にアジアや北米、オセアニアへ渡った。

 高知県教委高等学校課によると、探究内容も多岐にわたり、高知では家庭料理の副菜として広く食されるものの、英国では外来種の雑草として社会問題化しているタデ科植物「イタドリ」に注目し、課題解決法を探るために英国に渡った生徒もいたという。

 高知県では従来、「全国版」で、留学する高校生らは年に1人か2人だったといい、「高知県版」の拠点形成支援事業によって、大きく増えた形だ。担当者は「教員を含めて(全国版の)制度は十分知られていなかった。帰国した留学生が今後、留学の魅力を伝えてくれれば、他の生徒も留学へ向け一歩踏み出せる環境が作れるのでは」と期待している。

 徳島県教委でも、積極的な応募を促すため、12月の募集開始後、県内各地で複数回、生徒(現中学3年~高校2年)や保護者、教員を対象とする事業内容の説明会を開き、疑問にも答える方針だ。【植松晃一】

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