Meagan Stone-Unsplash

<アメリカの研究によると、ポイントは刺激成分を「飛散させない」ことにある。そのために取れる最大の対策とは?──>

料理は心を落ち着ける「瞑想」にもなる──ただし、玉ねぎで目に強烈な痛みが走るまでは。

玉ねぎを切ると、思わず涙があふれてくることがあるが、最新の科学的研究によって、その刺激成分が空気中に拡散する仕組みと、それを防ぐ方法が明らかになった。

アメリカ・コーネル大学の研究者らによると、涙を避ける鍵は「よく研がれた包丁でゆっくり切る」こと、もしくは「切る前に玉ねぎを油でコーティングする」ことだという。

このアドバイスは、アメリカ科学アカデミー紀要に掲載された研究に基づくもので、同研究では、玉ねぎが放つ刺激成分の飛散メカニズムを詳しく調べている。

涙を誘う「二段階カスケード」

これまでの研究で、玉ねぎに含まれる刺激成分「プロパネチアール-S-オキシド(propanethial S-oxide)」が涙の原因だと判明していたが、今回の研究では初めて「その化合物がどのようにして目に届くのか」というプロセスを解明した。

研究チームは、ハイスピードカメラとコンピューターモデルを使い、包丁が玉ねぎを切る際に何が起きているのかを詳細に解析した。その結果、包丁が玉ねぎの層を押し込むと、内部の細胞が加圧されることがわかった。

各層は上下の皮に包まれているため、包丁が上側の皮を貫通すると、「層内にかかる圧力によって、微細な液滴のミストが噴き出す」という。

この研究では、さらに詳細な力学的プロセスも明らかにされた。論文では、「包丁が最初に高速の飛沫を押し出し、その後、より遅い液体が滴状に変化して飛び散る」という二段階の現象が報告されている。

研究チームを特に驚かせたのはミストの噴出速度だった。微細な液滴は、時速約18〜143キロメートル(11〜89マイル)で飛び出しており、「包丁の動きよりもはるかに速い」と、論文の著者で工学者のサンファン・"サニー"・ジョン(Sunghwan "Sunny" Jung)氏はコメントしている。

ちなみに、プロ料理人でも包丁の速度は1秒あたり約1メートルだ。

鈍い包丁ほど飛沫が広がる

研究ではさらに、「包丁の鋭さと切るスピードが、飛び散る飛沫の量に直接影響する」ことも判明した。

論文では、「包丁が鈍く、切る動作が速いほど、飛沫の量と飛ぶエネルギーが急激に増加する」と述べられており、これは多くの料理人が経験的に感じていた「料理の直感」を裏付ける結果だという。対策も明確で、「包丁をよく研ぎ、やさしく切ることで飛沫を減らせる」と記されている。

この発見は単に涙を流す人を減らすだけにとどまらない。ジョン氏は、飛沫を抑えることが厨房での病原菌の拡散防止にもつながると指摘する。玉ねぎには病原菌が潜んでいる場合もあり、飛沫による拡散は無視できない。

実際、玉ねぎから噴き出すミストの速度は、人が咳をしたときの飛沫の2倍近いスピードに達することがあり、汚染された玉ねぎから病原体が意外なほど遠くまで飛ぶ可能性があるという。これは食品安全上の深刻な懸念とも言える。

「仮に玉ねぎの表面層に病原体が付着していたとすると、その玉ねぎを切ることで、病原体が液滴に包まれて飛び散る可能性がある」と、ジョン氏は説明する。

この研究は、包丁を研ぐことが食品全体の安全性向上につながるという重要な示唆も与えているのだ。

Reference
Wu, Z., Hooshanginejad, A., Wang, W., Hui, C.-Y., & Jung, S. (2025). Droplet outbursts from onion cutting. Proceedings of the National Academy of Sciences, 122(42). https://doi.org/10.1073/pnas.2512779122


鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。