朝は決まって二日酔い。それがつらい。
売り上げが上がると、うぬぼれてしまう自分も嫌いになる。
今週だけで2回、スマホをどこかに落とした。
もう、潮時やな――。
東京・歌舞伎町のホストだった西本玲(りょう)さん(35)。生まれ育った大阪に戻ったのは24歳の時だった。
◇
チャンスつかみたかった
もともとは、大阪の日本料理店で働いていた。
高校時代のバイト先だった居酒屋で、魚を巧みにさばく料理人に憧れた。調理師専門学校で1年学び、就職した店だった。
仕事は朝から深夜まで。毎日のように怒られた。
体も心も苦しくなった。1年も持たなかった。
何かチャンスがあるはずだ――。新幹線で東京へ。
行くあてはなく、向かった先は歌舞伎町。好きなゲームの舞台だった。
3年で終わった東京生活 戻った先は…
ホストにならないか、と声をかけられた。住むところも用意してくれるから、と働き始めた。
だが、東京生活は、3年で終わった。
◇
料理の道に戻った。
イタリア料理店で働き始めたが、和食がしたい。店を移った。
何かを自分に課そうと思った。思いついたのが、ワインのソムリエになること。
知識も経験もゼロだったが、2019年からスクールに通い、テイスティングなどを学び始めた。
だけど。
「勉強を後回しにしてしまうんです。明日すればいいさ、って」
さらに、コロナ禍。飲食業界は先が見えなくなった。勉強の意欲がそがれた。
23年春、大阪・梅田の居酒屋に移る。
厨房(ちゅうぼう)に立ち、包丁を握るようになると、あの時の思いが頭をよぎる。
今の店では、ワインは提供していない。でも、自分に課した目標を達成しなければ、次には進めない。
◇
資格がとれたのは24年12月。5年かかった。「チャラチャラしていた私が、飲食の世界で生きる覚悟を自分に示せた気がします」
「何もなかった自分に」次の目標
店での肩書はチーフ。料理をつくる責任も担う。他のスタッフに指示する立場でもある。
自分にも仕事を逃げ出した苦い経験がある。「スタッフのモチベーションを上げようと心がけているつもりです」
次の目標は、日本酒の「ソムリエ」。
「何もなかった自分の付加価値を、より高めたいんです。そして、自分が選んだ酒をお客さんにも楽しんでもらえるようになりたい」
大阪・梅田にある「大衆酒場 天神大ホール 大阪駅前第3ビル店」。西本さんは、ここで包丁を握っている。
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