
環境意識の高まりなどを背景に、古着が身近な存在になってきた。とはいえ、どのように取り入れたらいいのか、悩んでいる人も多いのでは。30代以上の女性に向けて、古着を着こなすヒントをまとめた「古着ひとつでおしゃれになります」(Gakken)がこのほど出版された。著者でファッションジャーナリストの宮田理江さんに古着との付き合い方を聞いた。
――古着に関しての書籍を出版したのはなぜですか。
「もともと古着が好きだったのですが、ジャーナリストの仕事を始めて最先端を発信する立場になり、距離を置いていました。それでも、ニューヨークのファッションウイークに出かけると、合間にビンテージショップをまわっていました。ショー会場では、エディターやスタイリストなどのスナップ写真も撮っていました。何を着ているか尋ねると、ハイブランドの洋服のなかに、『これはビンテージなの』と、何らか古着を取り入れていることが多く、いずれ日本もこうなるだろうなと思っていました」
「新型コロナウイルス禍が大きなきっかけになったと思います。家にある服を整理したり、人に会う機会が少なくなって、大切な人と少しだけ会うときに、本当に自分が気に入った服を着たいと思ったりと、自分の服を見直す機運が高まりました。いつも新しいものを着なくてはという空気もなくなっていきました。そのうち、セレクトショップでも古着を買い付け、店頭で新作とミックスしてディスプレーするようになりました。タイミングがやってきたと思いました」

――古着のよさとは何でしょうか。
「まずは他の人とかぶらないこと。ジェンダーレスやシーズンレスなど従来の決まりを超える装いが主流になるなかで、全身かっちりと決まった格好ではなく、テーストのミックスや、ゆるさや外しがキーワードになっています。古着はうってつけで、1点取り入れるだけでこなれた感じになります。価格が手ごろであることや環境にやさしいところも古着のよさです」
「自分らしさをみつけるきっかけにもなります。古着は基本的に、すべて一点もの。トレンドに関係なく、『これいいな』とか『かわいいな』と一目ぼれして買う。そこにはその人なりのひかれる何かがあると思ってます。小さい頃の思い出と何か関係があったり、フリルやキラキラなどのディテールにひかれたり、その人らしさや自分の好きなものが浮き彫りになります。よく『自分らしい着こなしを』といわれますが、古着こそ、眠っている自分らしさを気づかせてくれます。全身で取り入れるのは難しいかもしれないけれど、1点なら取り入れやすいです」

――日本の古着のマーケットの現状をどう捉えていますか。
「古着市場は拡大が続き、店舗も増えています。以前は、ブランド品を扱う高級なビンテージショップか、カジュアルで安い古着屋のどちらかばかりでした。それが今、様々なジャンルやテーストのショップが増えています。60〜70代が、『たんすじまい』など持ち物の整理を始めているからです。一般的に、30年を経るとビンテージといわれることが多く、特に今、1990年代の服が豊富です。この世代は、アルマーニなどの海外ブランドやニコルやワイズなどのDCブランドなどを多く所有していて、きれいな状態で保存され、国内の古着ショップに出てきています」
「日本の古着ショップのクリーニングやリペアの技術は丁寧で、例えば肩パッドが外してあるなど、気も利いています。清潔で状態もよいため、海外の人も日本で買っています」

――古着初心者が取り入れるのによいアイテムはありますか。
「ニットをおすすめしたいです。風合いや素材がいいものが多いです。古着はサイズが難しいですが、ニットであれば伸縮性もあるし、ゆるっと着ていい点からも選びやすいです。今ではなかなかないような手編みのものや、あっても新品だと価格が高い凝ったものに出合えます。手持ちのパンツやスカートに合わせるだけで、装いを穏やかでソフトな雰囲気に導いてくれます」
――自分のたんすのこやしを「セルフビンテージ」として再登場させるコツも書かれています。
「そのアイテムを購入した当時と同じスタイリングをするのではなく、今のトレンドとミックスさせるのがいいと思います。おすすめは、重ねて着るレイヤード。スポーティーなものとセレモニーっぽいものを合わせたり、カジュアルなジーンズに繊細なレースのスカートを合わせたり、相反するものを組み合わせるのがコツだと思います」

――古着のマーケットは今後どうなっていくでしょうか。
「かつてはマニアックなイメージのあった古着ですが、これからは新品と古着が同じ土俵で語られる時代になり、より幅広い層に広がっていくと思います。セレクトショップが古着をミックスして販売しているだけでなく、古着ショップが新品のタンクトップなどを販売していたり、オリジナルブランドを立ち上げていたりします」
「オンラインストアを展開しているショップも多いですし、SNSでの紹介も熱量が高く、最近は『通勤コーデ』や『きれいめスタイル』の投稿も目立ちます。ユニクロのような大手も古着を提案していますし、ますます新品との境界線が曖昧になっていき、市場規模も広がっていくとみています」
(井土聡子)
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