推し活は年齢問わず人生に良い影響を与えるのかもしれない metamorworks-shutterstock
<「推し活」は歳を取ってからこそ重要なのかもしれない>
※本記事は後編です。
前編:AIとの会話も有効? 高齢者医療専門家が提唱する、脳寿命を延ばし認知症を予防する習慣とは
中編:年を取ってからも「性的な刺激」を求め続ければ認知症を防げるかも...脳の老化を防ぐために必要なこと
14. タンパク質を十分に摂る
脳の老化予防のもう1つの大敵と私が考えているのが鬱病だ。鬱病になると一気に意欲が衰えるし、活動量も低下する。服装などにも気を使わなくなり、精神的にも老け込んでしまう。
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中高年以降の鬱病を防ぐために大切なのは、セロトニンという神経伝達物質の分泌を減らさないことだ。セロトニンの材料はトリプトファンというアミノ酸。これは必須アミノ酸といって身体の中で作ることができないので、栄養として体外から取らないといけない。この材料がタンパク質だ。中高年以降のタンパク質不足は筋肉の減少だけでなく、鬱病を呼び寄せてしまう。
ついでに言うと、コレステロールはセロトニンを脳に運ぶ働きがあると考えられている。タンパク質とコレステロールを一緒に取れるのが肉類なのだ。
アメリカ人が肉を1日300グラム食べるのに対して、日本人は100グラムしか食べていない。アメリカでは肉を控えろというのは正論かもしれないが、日本人はもっと肉を食べろと私は言いたい。
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15. 日光を浴びる
鬱病の予防のためにもう1つ大切なのが日光だ。日光が目に入るとセロトニンを分泌するセロトニン神経が活性化することが知られている。セロトニンの分泌が増えると、鬱病の予防になるばかりでなく、イライラが治まったり、不安感が軽減される効果もあるし、痛みが和らぐ作用もある。
そういう点で、日光を浴びることは脳の老化予防だけでなく、脳のコンディションをよくするためにも大切なのだ。日光でなくても、部屋を明るくするだけでもかなりの効果が得られる。実際、北欧などでは、冬場の日照時間が少ないことで生じるとされる冬季鬱病に対して、明るい光を当てる光療法というのが盛んに行われている。
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16. 軽い運動を心がける
そのほか、セロトニンを増やすのに有効とされるのは、リズミカルな軽い運動だ。リズミカルに歩くだけでよい。ハードであるより、リズミカルであるほうがセロトニンの分泌には影響があるとされる。
それ以外にセロトニンの分泌を促進するとされているのが、かむことだ。朝食抜きは脳内のブドウ糖不足を起こすだけでなく、かむ回数を減らすことにもなるので、脳にはとても悪い。
ガムをかむと集中力が高まるという人もいるだろうが、セロトニンの分泌が増えることでイライラや不安感も緩和されるはずだ。
ちょっとした散歩や、かむ習慣のように、一見運動と思われないような運動が脳の老化を防いでくれることを知っておいて損はない。
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17. 恋する気持ちを大切にする
恋愛は脳にとてもよい。胸がときめく体験も、予想外なことが起こる体験も、前頭葉には絶好の刺激になる。また男性は男性ホルモンが増え、女性は女性ホルモンが(男性ホルモンも)増えるので若返りにつながる。そしてセロトニンだけでなく、愛情ホルモンといわれるオキシトシンが増えるので、鬱病の予防になるばかりでなく、人にも優しくなれる。
ただ、もちろんこれは不倫の勧めではない。バレるとまずいと思って行う恋愛はかえってストレスになりかねない。
大事なのは恋する気持ちを持つことだ。気になる人がいたら空想の世界で片思いの恋愛を楽しめばいいし、ペットを愛するのだって恋心だ。配偶者と旅行やグルメを楽しめるのなら、それも立派な恋だ。
とにかく、恋心が芽生えたらそれにふたをするのは脳には決してよくはないのだ。
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18. 推しをつくる
恋心を維持するテクニックとして私が勧めているのが推し活である。アイドルや韓流スターの追っかけでもいいし、どこかのチームの熱烈なファンになるのもいい。
それまで寝たきりだった人が、推し活で応援に駆け付けるために歩けるようになったり、応援するチームの国の言葉を勉強するようになった例もあるそうだ。オタク的なものでも恥ずかしがることはない。推しができれば、脳は若返る。
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19. 無批判にテレビを見ない、医者の話をうのみにしない
脳の、特に前頭葉にとって大敵といえるのが権威主義だ。どんな権威者の言うことでも、いつ覆されるか分からないし、現時点で正しいかどうかだって分からない。常に疑い、インターネットなどを通じて可能な限り自分で調べる習慣が前頭葉を鍛えることになる。
ノーベル賞受賞の学者だって、その分野以外は専門外だと思うくらいがいい。大谷翔平選手だってサッカーの監督はできないだろう。
その中で、テレビは「かくあるべし思考」や「二分割思考」を植え付け、鬱病になりやすい思考パターンに人を染める。テレビに出ている学者だって実績が怪しい人が多い。無批判に見るなら、テレビほど危険なものはない。
同じように、医者の言うこともうのみにすべきでない。日本では大規模比較調査などを行わず、権威と称する人間がデータを無視した治療や健康指導をしている。
疑う習慣が自分を守り、脳の老化を防いでくれるのだ。
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20. 知識人より思想家を目指す
日本では物知りが偉いと思われ、知識人などと呼ばれてきた。西欧の知識をいち早く取り入れた人が優位なポジションにいたのは確かだろう。
しかし誰もがスマホを持つ時代に、知識が多少人より多くても、検索されたら太刀打ちできない。年の功で得るべきなのは知識の多さでなく、考えの深さだろう。
昔との比較などを含めて、若い人には思い付かないことを考えることを目指すのは、脳の老化を防いでくれるだけでなく、頭のいい老人になる道筋だ。知識人より思想家を目指すのが、脳の最大の老化予防で、生涯現役の秘訣だ。
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※本記事は後編です。
前編:AIとの会話も有効? 高齢者医療専門家が提唱する、脳寿命を延ばし認知症を予防する習慣とは
中編:年を取ってからも「性的な刺激」を求め続ければ認知症を防げるかも...脳の老化を防ぐために必要なこと
和田秀樹(精神科医)
HIDEKI WADA
東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科を経て現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書に『80歳の壁』『不老脳』などがある。
Photograph by YUMIKO TAKAGIーNEWSWEEK JAPAN
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