今シーズンは早くもインフルエンザの流行期に入っている(写真はイメージ)=ゲッティ

 インフルエンザの全国的な流行期が早くも始まっている。子どもへのワクチン接種を検討している保護者も多いのではないだろうか。だが、注射嫌いの子どもにとって接種時の痛みや恐怖感といった心理的負担は小さくない。

 そんな中、“痛くないワクチン”として注目を集めるのが、鼻腔(びくう)に噴霧するタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト」だ。従来の注射タイプとの違いや適切な接種のタイミングについて、「どうかん山こどもクリニック」(東京都台東区)の小児科医、森戸やすみさんに話を聞いた。【近藤綾加】

感染防ぎ、重症化もしにくく

 ――インフルエンザワクチン「フルミスト」は、国内では2023年に薬事承認され、24年から多くの医療機関で接種が始まりました。フルミストの特徴や従来の注射タイプとの違いについて教えてください。

 ◆日本では新しいワクチンとして注目を集めるフルミストですが、世界的にみると03年に初めて米国で承認され、すでに36の国と地域で承認されています。(23年4月時点)

 従来の注射タイプのインフルエンザワクチンは、ウイルスを分解して感染力を失わせたものを原材料とする「不活化ワクチン」で、皮下注射をして体内に抗体を作らせます。13歳未満は2回の接種が必要で、接種部分の腫れや発熱といった副反応がある場合があります。

 一方、フルミストは弱毒化したインフルエンザウイルスを使用した「生ワクチン」です。インフルエンザウイルスの主な侵入口となる鼻腔に噴霧し、自然感染した時のような抗体の作られ方をします。粘膜の免疫に重要な抗体(IgA)を誘導することで感染を防ぐ高い効果が期待できますし、血液中の抗体(IgG)も作られるため、感染した場合も重症化しにくいとされています。

 接種方法は、鼻腔に計0.2㎖(左右0.1㎖ずつ)を噴霧し、接種回数は1回で完了します。対象年齢は2歳以上19歳未満で、鼻水やせき、咽頭(いんとう)痛などの副反応が出る可能性があります。

受験、最適な接種時期は?

鼻に噴霧するインフルエンザワクチン「フルミスト」=東京都台東区で2025年10月22日午後1時9分、近藤綾加撮影

 ――効果はどのくらい続くのでしょうか。

 ◆フルミストの効果は半年間あるとされています。注射型もほぼ同じくらいです。

 ――受験や卒業式など大切な行事を控えている場合、接種に適したタイミングはあるのでしょうか。

 ◆インフルエンザワクチンはどちらも接種から効果が出るまでに2週間ほどかかるといわれています。まれではあっても副反応が出る可能性があるほか、治験によると2%以下ではあるもののワクチン由来でインフルエンザを発症することもあるので、受験などの直前に接種を受けるのはおすすめしません。病み上がりの万全ではない体調や、症状がある中で受験本番に臨むことは避けたいですよね。半年間は効果が続きますし、すでに今シーズンは流行期に入っているため、早めの接種をおすすめします。今接種を受けたら、受験シーズンには効果がなくなってしまうということもありません。

 また、多くの医療機関では10月1日からインフルエンザワクチンの接種が始まっていますが、フルミストについては、予想を上回る予約が殺到して在庫不足となり、すでに予約の受け付けを終了した施設もあると聞きます。接種を考えている方はクリニックの予約状況を確認しておきましょう。

注射型とフルミスト 接種の効果は

 ――接種ができない人や控えた方が良い場合はあるのでしょうか。

 ◆発熱がある人▽急性の病気で具合の悪い人▽免疫機能が下がっている人▽過去にこのワクチンでアナフィラキシーを起こしたことがある人▽妊娠中の人――などは接種ができません。また、授乳中の人は赤ちゃんへの感染リスクもあるので、不活化ワクチンを推奨します。

 ――すでに注射型のインフルエンザワクチンの接種を受けた方がフルミストを接種することはできるのでしょうか。

 ◆問題ありません。ただし、フルミストも注射型も、接種を受けた場合のインフルエンザにかからない割合はそれぞれ4割から多くて6割弱とされていて、両方を接種したからといって効果が2倍になるわけではありません。

 また、生ワクチン同士は接種の間隔を4週間空けないといけませんが、フルミストはその縛りはありません。インフルエンザにかからないように、どうしてもフルミストに加えて注射型の接種も受けたいと考える方もいるかもしれません。しかし、それならばフルミストと新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン、不活化ワクチン)の接種を検討した方が良いと思います。冬はインフルエンザだけでなく、新型コロナの感染が増える季節でもあります。かかってしまったときには、新型コロナウイルス感染症もインフルエンザのように高熱が出て、他の人と隔離が必要で、なにより本人がつらいです。新型コロナのワクチンは12歳から受けることができます。

差額は最大1000~3000円程度

「どうかん山こどもクリニック」(東京都台東区)の小児科医、森戸やすみさん=本人提供

 ――注射嫌いの子にとって、痛みがないというのは大きなメリットになりますよね。

 ◆そうですね。注射が嫌いで、小学生でも泣いて逃げ回ってしまうお子さんもいらっしゃいます。まず病院に来るのも大変ですし、従来の注射型は2回来院して接種しなければいけない。保護者の方の負担も大きいと思います。

 その点、フルミストは霧状の薬がふわっと鼻から入ってくる感じで痛みもなく、他の液体の点鼻薬ほどの拒否感も少ないようなので接種に対する負担感は減るでしょう。

 価格については医療機関によって違いますが、フルミストは8000~1万円、注射型は1回3500~5000円のところが多いです。注射型は2回接種が必要なので、フルミストと比べても最大で1000~3000円ほどの差です。

 自治体によっては助成制度もあり、注射型かフルミストのどちらか一方だけが対象になります。それぞれの対象年齢や助成額についてはお住まいの自治体に確認しましょう。

 受験生のいるご家庭では、受験生本人だけでなく、家族そろって予防することが大切です。手洗いうがいや換気、マスクをするなどの基本的な対策も忘れずにしましょう。

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