自家栽培のソバをシカなどに食い荒らされる獣害で休業していた奈良県桜井市笠の「笠そば処(どころ)」が、15日から半年ぶりに営業を再開する。13日にプレオープンがあり、打ちたての新そばを勢いよくすする音が店内に響いた。

 「感謝するしかない」

 運営会社の山本信広社長(77)は、大勢が出入りする店舗を眺め、しみじみと語った。

 過疎の進む笠地区でソバを栽培し、生産、加工、料理の提供まで地元の人がする。2002年には笠地区全戸が出資する有限会社をつくって運営し、地域おこしの成功例とされた。

 次第にイノシシやシカにソバを食い荒らされるようになった。昨年は補修の遅れた防護柵を破られて例年の3割しか収穫できず、今年4月末で営業を休止した。

  • 奈良・桜井名物「笠そば」、獣害で休業 山間地活性化へ、再開めざす

 今年は総延長26キロの防護柵を直し、夏は男性従業員2人が草刈りに精を出した。白い花が徐々に広がっていくのを見て、山本社長は涙が出る思いだった。「休みがなかったら、こんな気持ちにならなかったかも」と、初心に返った。

 10月からの収穫は豊作で、12トンほどを見込む。物価高騰でご飯ものは値上げするが、ざるそば並580円をはじめ、そばは据え置きだ。

 この日は松井正剛市長や市職員のほか、プレオープンと知らずに訪れた人も。大阪府東大阪市の川村晟さん(85)、秀子さん(76)夫妻は20年以上通う。今回は「新そばあるやろな」と久しぶりの来店だった。歯ごたえあるそばを味わい、「いつも通りおいしい」と笑みが広がった。

 防護柵の補修費は引き続き山本社長が工面する。従業員は「生活がかかってるんで!」と明るく来店を呼びかける。

 午前10時~午後4時。水曜と12月30、31日休み。正月も笠山荒神社の初詣客に向けて開く。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。