全国各地で相次ぐクマによる被害。山梨県でも例年を超える目撃情報がある。県南西部、静岡県境の山あいにある早川町では、養蜂農家がいる集落で出没。地元のベテラン猟師たちがわなを設置して警戒している。
14日、クマ猟師の深沢守さん(76)が、仕掛けたわなを確認していた。木々の間から今にもクマが出てきそうな場所だ。
ドラム缶を溶接し、長さ2メートルほどの筒状にしたわなの奥には蜂蜜の箱が置かれている。クマが入って箱を動かすと、入り口が塞がる仕組み。中には無数のひっかき傷があり、クマが暴れた跡が残る。別の集落に設置していた3日前、ツキノワグマの雄1頭を捕獲したばかりだ。
「伝説の猟師」が感じる異変
早川町の奈良田地区で50年以上猟師をしている深沢さんは、地元では知らない人のいない「伝説の猟師」だ。ツキノワグマの保護のため、捕獲数を年間40頭に制限している県内で、毎年1~2頭のクマを狩猟してきたという。「昔は冬眠前のクマをさばくと、もっと脂(脂肪)がたまっていた」と、ドングリなどの餌が不足している様子を指摘する。
命の危機を感じた経験もある。1995年2月、山深くへと入り、犬たちと獲物を追い立てていると、巨大なツキノワグマに遭遇。10メートルほどの至近距離で散弾銃を撃ったが、クマは絶命せず奇声を上げた。「半矢の(仕留め損ねた)クマは凶暴になる。血の気が引いた」。犬の威嚇に気を取られているすきに背後から2発目を放ち、何とか仕留めた。体長1・9メートル、体重200キロで「犬がいなければ危なかった」。
向かってくるクマに撃てるか
国は9月、市街地に出没したクマを自治体の判断で駆除できる「緊急銃猟制度」を導入。11月13日からは警察官がライフル銃を使い、クマを駆除することが可能になった。
深沢さんによると、クマの急所は横向きなら前あしの付け根、正面なら「月輪」の下だ。「技術だけでなく心の問題。経験があれば、向かってくるクマにも冷静に対処できるが、それができるかどうか」と深沢さんは懸念する。危険な駆除にあたる猟友会の人たちを「せめて手当を厚くしてあげてほしい」と気遣った。
山に入って積極的に個体数を減らすべきだという声もある。「猟は複数人が必要で、危険も伴う。現状ではわなの数を増やして駆除していくしかないのではないか」と話す。
奈良田地区の猟師は現在、深沢さんを含めて3人しかいない。深沢さんも80歳を超えたら引退するつもりだ。「昔はこの地区にも10人以上の猟師がいた。年を取り、感覚も鈍る。いつまでも猟師はできない」。クマとの長期戦を見据え、まだ若い残る2人に技術を伝承していく。【杉本修作】
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