
Sydney Latham-Unsplash
<幼い頃から「大人の役割」を任されがちな長女。その影響は大人になってからも「休めない」「眠れない」といった形で現れることも>
心理学者のイケランダ・スミス博士(Dr. Ikeranda Smith)がTikTokに投稿した動画が話題を呼び、120万回以上再生されている。スミス博士によると、一般的に「長女」は感情的・制度的な重荷から、休息や睡眠すらままならない状況にあるというのだ。
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動画でスミスは、長女は幼少期から「世話をする人」「支える人」「感情の拠り所」として育てられる傾向があり、それが休息や心の安定、自己防衛の機会を奪っていると解説している。
スミスは、4歳下の弟を持つ38歳のリア・ブラウンと共に本誌の取材に応じ、「長女という役割は終わりのない責務だ」と語った。
子ども時代に始まる「責任」、奪われる「休息」
スミスによれば、長女が休息をうまく取れなくなる問題は、幼少期にすでに始まっているという。特に、父親が家庭での役割を果たしていない場合、その傾向が顕著になる。
そうした家庭では、長女が幼い頃から複数の"大人の役割"を担わされることが多い。「つまり長女は、子どもの頃から"与える側"として生きる。それだけでなく、面倒を見る側にもなる。弟や妹は彼女の"子ども"になり、時には母親すらその対象になることもある」とスミスは語る。
このような早すぎる成熟は、心理学の分野では「ペアレンティフィケーション(親役割化)」と呼ばれ、親の情緒的未熟さに起因することが多いという。「長女は子どもの頃から親役割を背負わされており、その背景には情緒的に未熟な親の影響がある可能性が高い」という。
イギリス在住のブラウンはスミスの指摘に深く共感している。「長女は"子ども"であると同時に、"共同親"の役割も背負わされる」と彼女は語る。
「私たちは、家族の"感情の温度計"であることを期待される。場の空気を読み、他人の感情を管理し、大人たちが責任を放棄したときには代わりに対処する役割まで担わされる」
彼女はさらに、自身の弟についてこう振り返る。「弟が、親の離婚の仲裁役になったり、遠く離れた場所から家族の危機を処理したりするよう求められたことは一度もなかった。もちろん、彼なりに別の形で支えてくれていたとは思うけど」
「忙しさ=自分の価値」になる
こうした家庭内の力学がもたらす影響は、大人になってもなお続く。「長女は、生まれてこのかた"休んだ"ことがない。休めない理由は、自分の身体の中にちゃんと"収まる"ことができないから。だからリラックスもできず、眠ることもできない」とスミスは述べる。
スミスによれば、多くの長女は「頭の中だけ」で生きており、常に思考が止まらない状態にあるという。「思考を止めて、自分の身体の感覚に戻ることができない。だから休息も睡眠も得られない」
その背景には、「休むこと」が否定されてきた経験がある。「休めば"怠け者"と見なされ、"何かをしていなければならない"と教え込まれてきた。働ける年齢になった瞬間から家族のために働く」とスミスは語る。
スミスによれば、長女たちは「忙しさ=自分の価値」だと信じ込むように育てられてきたという。「忙しくしていない自分には価値がないと感じてしまう。だから彼女たちにとって"休息"は存在しない。それどころか、自分が信じてきた現実と真っ向から矛盾する行為なんだ」と語る。
複数の分野で組織変革を支援するコンサルティング会社「The WayFinders Group」の創設者でもあるブラウンは、「長女は、家庭内の"危機管理担当"を自然と任される。その役割意識や警戒心は、大人になってからも人間関係や職場にまで持ち込まれる(それを癒すまでは、ずっと続く)」と語る。
彼女自身も、幼少期に弟の世話や親の失敗の尻拭いをしてきた経験から、それが大人になっても"反射的な行動"になっていたという。
「私には問題を解決する力がある。でもそれと同時に、休めない。なぜなら私にとって"休むこと"は、自分の持ち場を放棄して、弟を家庭の機能不全にさらすことだったから」
「眠れない」のは自己防衛のかたち
現在、多くの長女たちが慢性的な疲労に苦しんでいるが、それでもなお休むことができない。「多くの長女たちは、眠ることに強い葛藤を感じている。十分に眠れていないし、そもそも眠れない。夜中ずっと起きていることも少なくない」とスミスは語っている。
長女たちは、眠れない現実に対処するためにさまざまな手段をとる。
「言いたくはないけど、多くの長女たちはSNSを延々とスクロールしたり、"ドゥームスクローリング"(終わりのないネガティブな情報収集)に陥ったりしている。睡眠導入のために代替薬に頼る人も少なくない」
ただし、スミスはこうした行動を「自己責任」としては捉えない。それらは本人の選択ではなく、「彼女たちが自ら作ったわけではない環境」に根ざした反応だからだ。
「たとえ依存や嗜癖の傾向があったとしても、それは家族関係の機能不全によって生じたもの。これは"システムの問題"であり、彼女たちが"受け継がされたもの"なんだ」と強調する。
「休息」は今もなお、訓練が必要な行為
ブラウンにとって、「休息」との関係はいまも複雑なままだ。
「何年ものあいだ、休むことは"職務放棄"だと感じていた。私が何かを解決していないとき、誰がやるのか? 何かを管理したり、改善したりしていない自分には価値がないと思っていた。今でも、私は"意識的に"休息を選ばなければならない。自然にはできない。それは神経系を再調整する"訓練"が必要な行為なんだ」
もし、長女が「休む」ことを許されたら
スミスは、もし長女たちが「受け継いだ重荷」を手放すことができたなら、何が変わるのかについて希望を込めて語っている。義務感を下ろし、明確な境界線を引き、休む自由を認められ、信頼できるパートナーやコミュニティ、そして「本当の自分」を見てくれる人たちに支えられたなら──。
そうした条件がそろえば、長女たちはようやく心からの休息を得られるはずだと彼女は言う。
「休息は、次の世代への"モデル"として不可欠。創造性や好奇心、遊び心といったものは、本来子ども時代に育まれるもの。でも長女たちは"親役"にされたことで、その機会を奪われてきた」
この連鎖を断ち切るためには、女性たちが自らの内側にある抑圧の構造に気づき、それを解体していく必要があるとスミスは説く。
「女性を"労働力"としてしか見ない構造を壊していくこと。そして、"何をするか"ではなく"どんな存在か"を見つめ合える女性同士のコミュニティの中で、自分自身を大切に育てていくこと。それが、休息と回復への第一歩になる」
ブラウンは、ポッドキャスト『The Longest Day』のホストを務めながら、5年以上にわたってカウンセリングと高パフォーマンス・コーチングを受けてきた経験を持つ。
「私は"休めない自分"を欠点と見るのをやめた。それを正しく使えば"力"になると気づいた。私の癒しは、痛みが現れるのを許し、それを見つめ、名前をつけ、手放すというプロセスから始まった」
現在、彼女は調停、政策提言、ホワイトペーパー作成などを通じて、他者の回復を支援している。「かつて自分が必要としていた"制度的な責任"を、今まさに自分でつくっている」と話す。そして最後に、彼女はこう締めくくった。
「本当の休息とは、単に体を休めることじゃない。"自分が動いていないと、世界が崩れてしまう"という思い込みを手放すこと。その信頼を、自分の中に育てていくことなんだ」
「いまの私は、"本能的に休む"のではなく、"意識的に休む"ことを選んでいる。休息の時間をスケジュールに組み込み、それを守り抜き、自分にこう言い聞かせている──『持続可能な変化には、持続可能な人間が必要なんだ』と」
@ikerandasmith Let's talk about the elders daughter in her relationship with rest. Hit the link in my bio to work with me#psychologist #eldestdaughter #innerchildwork #selfworthadvice #millennialsoftiktok ♬ original sound - Dr. Ike
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