ヒトとイヌの関係に近いだろうか、と考えてしまいました。別の生き物なのに、一緒にいることで互いにメリットがあり幸せになれる。
イヌは優れた嗅覚と聴力で危険を察してヒトに伝え、また身体能力の高さでヒトの狩猟生活を助けてきました。イヌにもヒトと過ごすことで敵から身を守り、エサをもらうことができるというメリットがありました。現代ではヒトに癒やしを与え、家族ともいえる存在になっていることはご承知の通り。
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そんな関係性が海中にもあります。手前の、化粧を塗り込めたように黄色い顔のサカナは「ヒレナガネジリンボウ」。なんとも個性的ですね。左奥の赤白のおめでたい色合いのエビは、その名の通り「コトブキテッポウエビ」です。
ヒレナガは、体長4センチほどの小さなハゼ。ひとまわり大きなネジリンボウによく似ていますが、名の通り背ビレが細く長く伸びているので分かりやすい。白地の体を巻くような黒い線が入っているため、祭りで見られる「ねじり棒」や、ラン科の多年草「ネジバナ」に名前が由来しているという説があります。
国内では千葉県以南の太平洋側、琉球諸島などの砂地で暮らし、流れてきたプランクトンを捕食します。標準和名は1999年に伊豆の個体を元に提唱されました。単独またはペアで生活し、他種のハゼと同じ巣穴で暮らしていることもあります。
コトブキも全長は約4センチ。学術名を元にした英名で呼ばれてきましたが、和歌山県串本町にある串本海中公園センターの学芸員だった野村恵一さんが2003年に和名をつけました。
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コトブキは、ヒレナガの後方で大きなハサミをショベルカーのように使って、せっせと砂や小石をかき出し巣穴を掘っています。
巣穴を掘ることがほぼできないヒレナガにとって、巣穴を提供してくれる相手はなくてはならない存在。一方ヒレナガは、巣の外側で目の悪いコトブキに外敵の接近を伝えるという役割を担っています。敵が近づくと、ヒレナガは弱い相手なら攻撃して追い払い、強い相手が近づくと尾ビレでエビの触覚を刺激し、巣穴に逃げ込む合図を送ります。
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このような互いにメリットがある共生を「相利共生」と呼びます。全く別の生物でありながら、お互いの苦手なところをカバーしつつ得意な分野を生かす安心安全生活。コトブキは雑食性ですが、ハゼの排せつ物をもエサとしているようです。巣穴の清掃も兼ねているのでしょう。
ただ、ハゼとエビの組み合わせには相性があるようです。5センチ以下の小型ハゼはコトブキ、それ以上の中型種だと別のテッポウエビ類との組み合わせが多い。
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私は子供の頃、先祖が紀伊半島の猟犬という中型日本犬と兄弟のように過ごしました。でも大きすぎるイヌや、小型犬はあまり得意ではありません。ヒレナガとコトブキのぴったりサイズ同士の仲の良さは、ヒトとイヌの関係に似ている、と懐かしい気持ちになりました。(和歌山県串本町で撮影)【三村政司】
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