夫の海外駐在に同行する妻は「駐在妻」「駐妻」などと呼ばれる。一見華やかだが、共働きが多くなる中、夫の海外駐在に同行した妻はキャリアが断絶することもあり、帰国後に再就職しようにもその道は易しくない。
そんな駐妻のキャリアを支援しようとする団体がある。「駐妻キャリアnet」だ。「働きたい」という思いを支えようと活動する代表の三浦梓さん(44)にこれまでの歩みや駐妻が直面する課題について聞いた。
ブラジル駐妻4人が立ち上げ
活動の始まりは2017年。パートナーのブラジル赴任に同行した4人の駐在妻が、それぞれのキャリアや帰国後の人生などについて悩みを共有するコミュニティーを交流サイト「フェイスブック」に立ち上げた。2カ月で200人の会員が集まった。
三浦さんはメーカー勤務の夫の海外駐在で20年1月にブラジルに同行したことをきっかけに活動に関わり、同年11月に3代目の代表に就任した。
ハイスペックなのに働けない
三浦さんによると、当時は「駐妻は専業主婦に徹して当然」との暗黙の了解があり、駐在先の日本人コミュニティーで「働きたい」と口に出すと、場が静まりかえるような状態だったという。
しかし、日本社会全体で共働きが一般的になる中、実は駐妻には国内では一線で働いてきた「バリキャリ」も少なくなかった。リーダー業務を経験したり、専門的なスキルを身につけていたりと高い能力を持つ人も多い。それなのに、ビザ(査証)や会社の規定で就労が制限されるケースも多く、仕事を辞めたり休職したりして、キャリアの断絶につながるケースもあった。
「キャリアを継続したい」「働いてきたのに社会とのつながりが途絶えて不安」。フェイスブック上で駐妻たちはもやもやした思いを寄せ合った。こうしたコミュニティー機能は活動の柱だが、悩みや不満を話し合っているだけでは解決につながらないのもまた現実だった。
国内外の企業と連携
三浦さんは同行する以前、リクルートや外資系コンサルタント会社などで働き、採用など人事の仕事にも携わってきた。その経験を生かし、国内外の人材紹介会社などと連携し、駐妻が現地に滞在したまま仕事に携わる機会を創出することに乗り出した。
会員である駐妻が世界各国にいるという利点を生かし、企業が海外進出するための市場調査や企画立案をサポートする事業などを進めている。
厳しい再就職の道
23年7月には駐妻の実態をより正確に把握しようと「駐妻キャリア総研」を設立し、さまざまなデータを集め、発信している。
23年の調査では、駐妻123人が渡航前に所属していた企業のうち、配偶者の海外赴任に同行するための休業制度があるのは約2割。同行のために退職した人を再雇用する制度があるのは4割弱に過ぎなかった。
三浦さんによると、休職制度があっても期間が短いため実際の同行期間とは合わず、十分に機能しないことも課題だという。数年の同行期間を終えて帰国すると、同行期間は「何もしていない」ブランクとみなされ、年齢も壁となり、再就職は簡単ではない。
「制度整備を」
一方で、駐妻の就労環境には変化も見られるという。新型コロナウイルス禍などでリモートワークが進み、海外からもリモートワークできる選択肢が加わった。配偶者にも就労ビザを出せる国の場合、社員に同行するパートナーに就労許可を出す企業もあるという。
三浦さんは「企業には実態を知ってもらい、同行期間中も働けて、キャリアを継続しやすい制度の整備を進めてほしい」と要望する。
現在、駐妻キャリアnetの会員は53の国と地域に住む約1000人に上る。25年4月には株式会社へと法人化し、代表取締役を務める三浦さんは、企業との連携などをさらに進め、駐妻のキャリアの空白を埋めていきたいと考えている。【藤河匠】
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