根室中標津空港(北海道中標津町)を離着陸する飛行機から眼下を見ると、将棋盤のような格子状の風景が広がる。
道遺産「根釧台地の格子状防風林」は酪農が盛んな中標津、標津、別海、標茶の4町にまたがる。幅180メートルの帯状の林が総延長648キロメートルにも及ぶ。
世界でも例のない規模を誇り、海霧や吹雪も軽減し農作物や地域住民を守る格子状防風林について、次世代を担う子どもたちに伝える取り組みが中標津町で進んでいる。
格子状防風林を構成するのは主に戦後植林されたカラマツ。その多くが伐採期を迎えている。
町有林の整備をする中標津町農林課林務係は防風林の伐採後の木材の活用について考える一環として、中標津町地域材利用促進協議会、根室振興局林務課と共同で子ども向けの木育木工教室を開催。
参加した同町の小学3年の吉田陽結さんは「鳥に声を返してもらいたい」と鳥のさえずりのような音が出る木製バードコールを小学1年の妹の結月さんと作った。標津町の小学1年、南瑛太さんはキーホルダー作りに挑戦。紙やすりで滑らかにした木材を「化粧品のパウダーみたい」と、ほおに当てていた。
根室振興局の石川邦彦さん(42)は「木に興味を持ってもらうことで森林とのつながりを感じてもらえたら」と説明する。
10月下旬、色づいたカラマツが立ち並ぶ国有林では、中標津第2ひかり幼稚園の園児が格子状防風林内で植樹した。
木育マイスターの資格を持つ同園理事長の篠永政男さん(64)が提案。林野庁根釧東部森林管理署の協力で今年初めて実現した。
植樹後、うちわと模型を使って防風林の機能を再現する実験を行うと、子どもたちは目を輝かせ興味津々の様子。篠永さんは「中標津を愛し環境を守る人になってくれるとうれしいな」と園児に語りかけていた。
中標津町教育委員会と町都市住宅課は2014年から町内の各小学校で4年生を対象に郷土の景観について伝える「景観学習」を開く。住民で組織する「みんなの景観なかしべつプロジェクト」のメンバーが講師役を務める。
町の成り立ちや防風林の歴史を学んだ後、防風林や建物などのミニチュアを立体地図に配置し、防風林の機能について学習した。授業を受けた4年1組の佐藤真央さんは自宅近くに格子状防風林はあるが「昔からあったのは知らなかった」といい、「昔のことも知れて良かった」と話した。
格子状防風林に詳しいNPO法人伝成館まちづくり協議会の飯島実代表理事(76)は「今の子どもたちは22世紀まで生きる。結論を急がず、縄文時代のような自然の風景に戻していくことが格子状防風林の理想形。いろんなものが混ざり合う森。林ではなく森にしていってほしい」と提唱する。【宮間俊樹】
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