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<免疫の衰えとともに、静かに体に溜まっていく「老化細胞」。110歳を超える人々の体に共通する「炎症の少なさ」について>
老化は、単純なしくみで説明できるものではなく、さまざまな要素が複雑に関わり合う現象である...。生命科学者の吉森保・大阪大学名誉教授がノーベル賞級の研究者たちに取材した、最新研究とは?
話題書『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』(日経BP)より、「炎症とは何か」より一部編集・抜粋。
◇ ◇ ◇
慢性炎症は、免疫の掃除が追いつかなくなっている状態
私たちの体の中では、年をとると「老化細胞」と呼ばれる細胞が増えてきます。
通常、細胞は新しく入れ替わります。細胞は古くなると、体内の免疫が出動、その細胞を除去します。そのあと、細胞の母となる細胞からまったく同じものが分裂してくるのです(脳や心臓の細胞のような生まれてから死ぬまで、ずっと同じひとつの細胞もあります)。
しかし、人が年齢を重ねると、細胞は入れ替わりがうまくいかず、「もう分裂するのはやめた。でもまだ生きたい」とでも言いたげに、体内に留まりはじめます。
通常は古くなった細胞を除去してくれるはずの免疫が、その手が回らずに残ってしまっている状態です。これが老化細胞です。この老化細胞が、慢性炎症と関係があります。なんと、老化細胞になった細胞は炎症物質を出し続けるのです。
こうなると、まるで「みんなも私と同じになれ~」と言うかのように、まわりに炎症物質をばらまき、そこから炎症が起こります。それが「SASP(細胞老化随伴分泌現象)」と呼ばれる現象です。
そもそも、なぜ老化細胞が炎症物質を出すかというと、免疫を呼び寄せて、不要になった老化細胞を取り除くためです。免疫は「古くなった細胞さん、おつかれさまでした。きれいに片づけますね」と言わんばかりに老化細胞を片づけてくれます。
ところが年をとると、この掃除が追いつかなくなります。年老いた体内では、老化細胞が増えるけれど、免疫は少なく、疲れています。彼らは「とても、追いつかない......」と嘆きながらも働いてるような状態です。
結果として、炎症物質が体中にたまり、慢性炎症の原因になるのです。このように、老化すると慢性炎症が起きやすくなります。
慢性炎症は病気の原因になる
慢性炎症は、さまざまな病気の原因になります。人体のあちこちで問題を引き起こします。
たとえば、血管の内側に慢性炎症が起きると、炎症はじわじわと血管壁を傷つけます。血管壁が傷つくと、そこに脂肪がたまりやすくなります。これが動脈硬化の始まりです。
血管が徐々にせまくなり、最終的には心筋梗塞や脳卒中といった深刻な病気につながる可能性もあります。脳の神経で慢性炎症が起きると、アルツハイマー病などの原因になることもあります。 炎症が神経細胞にたんぱく質のかたまりをつくり、脳の機能を低下させてしまいます。
内臓脂肪で慢性炎症が起きると、インスリンの働きが悪くなり、糖尿病になるリスクも高まります。 内臓脂肪に潜む炎症が、全身の代謝に影響を及ぼします。
多くの病気と関係があるからこそ、慢性炎症を防ぐことが健康長寿につながります。
長生きの人は、炎症が少ない
ある研究によると、日本の110歳以上の人には、共通の特徴があります。詳しくは本書の第7章「100歳以上生きる人とそうでない人の違いを調べている機関がある」 (178ページ)で説明しますが、その特徴のひとつが、体内の炎症が少ないことです。
一般的な高齢者の体内では炎症があちこちで起きていますが、彼らの体内ではそれがほとんど見られません。彼らには遺伝的に炎症を抑えるしくみがうまく働いているのです。
この事実は、私たちに重要なヒントを与えてくれます。炎症を適切にコントロールすることが、健康長寿の秘訣だという可能性があります。
吉森 保(よしもり・たもつ)
1996年オートファジー研究のパイオニア大隅良典先生(2016 年ノーベル生理学医学賞受賞)が国立基礎生物学研究所にラボを立ち上げたときに助教授として参加。大阪大学大学院医学系研究科及び生命機能研究科教授などを経て、大阪大学名誉教授、同医学系研究科寄附講座教授。著書に『ライフサイエンス 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』(日経BP)、『生命を守るしくみ オートファジー ――老化、寿命、病気を左右する精巧なメカニズム』(ブルーバックス)がある

『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』
吉森 保[著]
日経BP[刊]
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