早稲田大学(東京都新宿区)の隣に位置し、学生に愛されてきた牛めし店「三品食堂」が1965(昭和40)年の創業から60周年を迎えた。若い世代の食生活の多様化も指摘される中、人気を保ち続けてきた理由は何か?
「時代は変わっても、若い人は牛めしやカツが好きです。その味を変えないことが大事だと思っています」。2代目店主の北上昌夫さん(79)は話す。
もともと学帽店だったが、初代店主である北上さんの母きよ子さん(故人)の時代に食堂に移行した。店名の由来は、メニューが当初、牛めし、カツライス、カレーの3品だったためだ。やがて牛めしにカツを加えた「カツ牛」、さらにカレーもかけた「ミックス」が大人気となった。
特大の「赤カツ玉ミックス」は1600円。約1・2キロというボリュームだ。「赤」とは、かつて店内で最も大きい丼の色が赤かったことから名付けられた。「今も1日1~2杯は出ます」と北上さんは話す。
近年はキャンパス周辺のコンビニエンスストアの弁当も充実し、女子学生も増え、早大生の食事も多様化しているとされる。だが、老舗の味を求めるファンはなお根強い。
タレはしょうゆや砂糖、水で作るが、「隠し味」は赤みそ。その甘辛の配分が絶妙で、食が進む。男子学生のみならず女子にも人気で、牛めしに卵をかけた「玉牛」を食べていた商学部1年の女子学生(19)は「同じ早稲田出身の父親に勧められ、食べに来ました。びっくりするほどおいしい」と話した。
もともと北上さんは大手製鉄会社に勤めていたが、「脱サラ」して店を継いだ。その姿を間近で見てきた長女のなつみさん(37)は話す。
「以前、『なぜ店を継いだの?』と聞いたことがあります。父は『おいしかった』と笑顔で帰っていく人たちとのつながりを途絶えさせたくなかったと言っていました。皆さんの温かい気持ちがあって、60周年を迎えられたと思います」
苦難の時期もあった。新型コロナウイルスが流行した2020~21年は大学の授業もオンライン中心になり、学生の姿がキャンパスから消えた。当時は、コロナ禍が終わった時に来てくれるよう「食券」を販売するなどして乗り切ったという。
現在、営業は月~金の午前11時半~午後2時。第1、3土曜も営業。店内には、常連客や卒業生らの多くの色紙が残る。
11月23日には60周年を記念したパーティーも開かれた。田中愛治・現早大総長や、レスリングの84年ロサンゼルス、88年ソウル両オリンピック銀メダリストの太田章さんらも駆け付け、「学生時代に何度も通った」「自分の体の一部は三品でできている」などと思い出を語った。
風雪に耐えてきた学生街の名店。今日も学生や教職員、そして地域の人々が、そののれんをくぐる。【篠田航一】
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