三重県中部を走るJR名松(めいしょう)線が開業90周年を迎え、JR東海は7日、津市美杉町奥津の伊勢奥津駅で記念列車の出発式を開いた。駅周辺では市主催の関連イベントもあり、災害による廃線の危機を乗り越えて走り続けるローカル線の節目を祝った。
松阪(松阪市)―伊勢奥津間の43.5キロを結ぶ名松線は、1935年12月5日に現在の路線が開通。松阪と名張市を結ぶ計画だったため「名松線」と名付けられた。奈良県桜井市まで建設する計画もあったが、現在の近鉄線が開通したため、伊勢奥津から先は着工されなかった。
名松線が危機に直面したのは2009年10月、台風で線路に土砂が流れ込み一部区間が不通に。JRは廃線を提案したが、沿線自治体の支援を受けて6年半後の16年3月に全線復旧した。
この日の出発式では、列車に掲げる記念のヘッドマークが披露され、午前11時半に松阪行きの列車が沿線住民や鉄道ファンに見送られて出発した。
沿線にある県立白山高校2年の北岡萠さん(17)がヘッドマークをデザインした。「選ばれるとは思わず、びっくりした」。通学で利用しているといい、「名松線がなくなってしまうと困る。これからもずっと存在し続けてほしい」と話した。
国登録有形文化財「給水塔」もお披露目
津市主催の記念式典は、伊勢奥津駅の屋外であり、前葉泰幸市長が「台風被害から奇跡の全線復旧を果たした。90年の重みを感じてほしい」とあいさつした。駅構内では、国鉄時代の1965年まで走っていた蒸気機関車に水を補給していた国登録有形文化財の給水塔が、保存のため修復された姿も披露された。
駅に隣接する市八幡地域住民センターでは、「終着駅サミット」があった。大井川鉄道(静岡県)の鳥塚亮(あきら)社長の記念講演に続き、記念シンポジウムで「終着駅から始まる地域の未来」をテーマに住民らが意見交換した。
鳥塚社長が「ローカル鉄道を残すには、収益力をつけ地元にお金が落ちるようにすること。都会の人は、気に入った場所なら何度でも来てくれる」と問題提起したのに対し、自治会などでつくる「名松線を守る会」の岸野隆夫会長(72)は「子どもをターゲットにしたイベントをやれば、親や祖父母も来てくれる」と応じた。
全線復旧の運動の先頭に立った「名松線を元気にする会」の中田かほる会長(80)は「名松線は美杉地域のシンボル。住民は収益を上げるのはへただが、無料の写真集を配るなどして保存に取り組んでいる」と話した。
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