病室のベッドで日向野福々さんに寄り添うファシリティードッグのアニー=横浜市南区の神奈川県立こども医療センターで2023年6月(母由美さん提供)
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 小児がんや重い病気で入院する子どもや家族を支える犬がいる。「ファシリティードッグ」と呼ばれ、病院の医療チームの一員として活動する。

 神奈川県立こども医療センター(横浜市南区)でこの冬、患者に8年間寄り添ったゴールデンレトリバー「アニー」から後任犬への引き継ぎ式があり、一緒に過ごした子どもたちも見守った。

 約15年前に日本で初めて導入された活動は、少しずつバトンをつないでいる。

引き継ぎ式に絵を用意 15時間の力作

口にスティックをくわえてタブレット端末で描いた絵を贈呈した日向野福々さん(左)=横浜市南区の神奈川県立こども医療センターで2025年11月12日、宇多川はるか撮影
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 ファシリティードッグは、医療施設などで働く専門的なトレーニングを受けた犬。「ハンドラー」と呼ばれる看護師ら医療従事者とペアで活動し、入院中の子どもたちのベッドで添い寝したり、リハビリを応援したりする。2010年に国内に初めて導入された。

 アニーは17年に同病院で初代だったゴールデンレトリバー「ベイリー」から活動を徐々に引き継いだ。26年3月に10歳を迎え高齢になることから引退する。後任は黒いラブラドルレトリバーの「オリ」だ。

 ベイリーとアニーが支えた子どもたちは延べ約3万9000人に上る。

 その中の一人、日向野(ひがの)福々(ねね)さん(15)=横浜市=は、アニーと後任のオリが前脚を携える絵を引き継ぎ式のために用意した。

 1歳9カ月の時、脳や脊髄(せきずい)に炎症が起こる急性散在性脳脊髄炎を発症し、首から下にまひが残る。

口にスティックをくわえてタブレット端末で絵を描く日向野福々さん=横浜市内で2025年12月1日、宇多川はるか撮影
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 口にスティックをくわえてタブレット端末で描いた。「学校が終わってから少しずつ描いて、全部で15時間ぐらいかけて仕上げた」と話す。

 引き継ぎ式では、活動を支える協賛企業の出席者に絵を贈呈し、2頭と記念写真に納まった。

「私を安心させてくれる」

 日向野さん親子が初めてファシリティードッグと触れ合ったのは、福々さんが最初に入院した1歳のころだ。

 「病院の中に犬がいるなんて、と驚きました」。母由美さんはベイリーを見たときのことをそう振り返る。

 当時、由美さんは光が見えない中にいた。「当初『2、3日でまひは元に戻る』と言われたのに、いつまでたっても治らない。『やはり手足が動かない状態は治りません』と言われ、ゴールのない闘いに思えました」

手術室まで日向野福々さんに寄り添うアニー=横浜市南区の神奈川県立こども医療センターで2023年6月(母由美さん提供)
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 それでも、娘の前では笑顔でいようと気を張っていた。ベイリーが病室に訪れたことで「心から笑顔になれた」という。

 その後、入退院を繰り返す中で、ベイリーとアニーは福々さんの心も癒やしてくれた。2年前に胃ろうの手術で入院する際には「できれば一緒にいてほしい」とアニーに手紙を書いた。

 その願いを聞き、ハンドラーの森田優子さんと共に手術室まで歩いてくれたアニーの姿を福々さんは忘れない。「アニーは女の子でかわいいお姫様のイメージで、私を安心させてくれる存在」と話す。

導入に踏み切れない病院へ基金募る

2度目の入院で父に抱っこされる日向野福々さん。手前はファシリティードッグのベイリー=横浜市南区の神奈川県立こども医療センターで2013年6月(母由美さん提供)
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 ファシリティードッグは現在、東京、神奈川、静岡の4病院に計4頭いる。

 育成、導入を続けてきた認定NPO法人シャイン・オン・キッズの研究員、村田夏子さんは「導入を検討する病院からの問い合わせは近年増えているが、資金面の課題が大きい」と話す。

 ベイリーが日本初のファシリティードッグとして活動を始めてから約15年。報道などを通じ、その存在は知られるようになってきた。これまで30病院から問い合わせを受けたが、導入に至ったのは2病院にとどまる。

 育成やハンドラー研修などの準備費用で約1600万円、その後の運営費として年間約1000万円を要する。多くの病院は経営難に苦しんでおり、「必要経費を賄いきれるのか」という不安で導入に踏み切れずにいるという。

 そんな中、兵庫県立こども病院が27年度に導入する予定だ。クラウドファンディング(CF)で資金が目標額に達し、関西では初めてになる。

 既に導入している東京都立小児総合医療センターもCFを活用し、発達障害や精神疾患の子どもたちが入院する「こころ病棟」で26年度にもう1頭を迎え入れる準備を進める。

ファシリティードッグのアニー(左の犬)とオリ(右の犬)と共に記念写真に納まる日向野福々さん(前列中央)ら=横浜市南区の神奈川県立こども医療センターで2025年11月12日、宇多川はるか撮影
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 村田さんは「より多くの病院と連携し、日本全国でファシリティードッグが活躍できるようになれば」と語る。

 同NPOは育成基金を募るCFを実施している。15日午後11時まで。詳細は「ファシリティドッグ育成基金 レディーフォー」で検索。期間外の寄付も受け付けている。

 詳細は同NPOのウェブサイトへ。【宇多川はるか】

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