2025年の「新語・流行語大賞」の年間大賞に「働いて×5」で選ばれた高市早苗首相。
睡眠時間が「2~4時間」と短いことを公言し、午前3時に「出勤」したことも話題になった。
「首相の睡眠不足を、純粋に心配しています」
そう真顔で話すのは、睡眠学の世界的権威で、筑波大国際統合睡眠医科学研究機構の機構長、柳沢正史教授。どうしても、首相本人に伝えたいことがあるという。
ハードワークの首相
高市首相は自民党総裁に選ばれた直後から、すでに睡眠不足だったようだ。
10月4日の総裁選で「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」と発言した5日後、民放テレビ番組への出演時に「寝る時間はあんまりないです」と吐露していた。
首相就任後初となる衆院予算委員会を迎えた11月7日、午前3時過ぎに首相公邸に現れ、その日の予算委では「睡眠時間もほとんど取れていないような状況で仕事をしている」と答弁する場面もあった。
さらに13日には最近の睡眠時間について「大体2時間から、長い日で4時間」と明かした。
ショートスリーパー名乗る人、ほぼ睡眠不足
高市首相のハードワークぶりは自民党総裁や首相就任によって始まったことではないようだ。
毎日新聞の過去の報道をみると、副経産相時代(2002~03年)の睡眠時間は「約3時間」(03年10月30日奈良県版)だったという。
高市氏が、憧れの存在と公言している「鉄の女」と形容されたサッチャー元英首相も、睡眠時間は4時間ほどだったとされる。
短時間睡眠で足りる「ショートスリーパー」の人も存在するとされる。
フランスの英雄ナポレオン(1769~1821年)は3時間程度のショートスリーパーとして紹介されることが多いものの、馬上や作戦会議でよく居眠りしていたとの逸話も残る。
柳沢さんによると、26年にわたり睡眠の研究を続ける中で、実際に会ったショートスリーパーと呼べる人は、せいぜい1人か2人だった。
確率的には数千人に1人程度なのだという。
「ショートスリーパーを名乗る人の99%以上は、無自覚の睡眠不足にすぎません。ネット上では『訓練すればショートスリーパーになれる』といった情報も見られますが、明らかな間違いで、短眠は遺伝子で決まった生まれながらの体質です」
実力発揮し切れてますか?
柳沢さんは「睡眠学的には、高市首相は本来の実力を発揮し切れていないと考えられます」と指摘する。
どういうことなのだろうか。
柳沢さんによると、慢性的な睡眠不足では脳や体のパフォーマンスが著しく落ちることが研究によって知られているという。
1晩徹夜すると、日本酒3合を飲んで完全に酔っ払った状態の脳のパフォーマンスと同じ状況になる。
また、1日4時間しか寝ない睡眠不足の状況を5~6晩続けていくと、1晩徹夜したのと同じ状態になるという。
やっかいなのは、慢性的な寝不足は必ずしも眠気を伴わないことだ。
こうした寝不足の負担は蓄積していくため、「睡眠負債」と呼ばれている。
「例えば4時間睡眠を2週間続けると、3日3晩徹夜をするのと同じような作業パフォーマンスまで落ちます。けれど、眠気の大きさを見ると、1晩徹夜したのと同程度です」
眠気は慣れてしまうため、無自覚に睡眠負債をためてしまう人が多いのだという。
「それが怖いところです。日本の働く世代の大多数が、それに該当すると思います」
睡眠学者が首相に直接伝えたい思い
柳沢さんは、高市首相も気づかないうちに睡眠負債をため込んでしまっていることを懸念する。
「2~4時間で睡眠が足りる人はほとんどいません。ご自身では頑張れていると思っても、睡眠不足の状態では、大所高所から決断を下す際に必要な、非常に微妙かつスキルフルに判断する認知や能力、クリエーティブな力が確実に落ちます」
高市首相は官僚が作成した答弁書について「私がどんどんペン入れして直しちゃう」(11月7日衆院予算委)とも述べている。
「睡眠負債をためた状態では、国会答弁一つをとっても、最適な発言ができていない懸念があります。このことは首相に直接伝えたいくらいです。純粋に心配しています」
しかも、睡眠時間の少ない状態を首相として見せていることにも問題があると考えている。
2~4時間しか寝ないで頑張っています、という姿を見せることは、国民に対して、睡眠時間を短くすることが頑張ることであるかのような、間違ったメッセージを送ることにつながるためだ。
柳沢さんは、最後にこう語気を強めて高市氏にメッセージを送った。
「ぜひ、本当の実力を発揮して頑張ってほしい。そのためにも、寝なきゃダメなんです」【待鳥航志】
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