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<なぜ女性の健康は置き去りにされてきたのか。いま世界で変革の声が高まっている>

女性の健康は、今なお危機にさらされている。

女性たちは医療の礎(いしずえ)となっている研究や意思決定の場から排除され、過小評価されてきたことは今さらニュースではない。


彼女たちの声、アイデア、リーダーシップは、単に待ち望まれているだけでなく、女性の命を危険にさらし続ける格差を埋めるために、今や不可欠なものでもある。それにもかかわらず、医学研究と臨床において、女性に対する投資は男性に比べ著しく少ない。

「世界経済フォーラム(World Economic Forum)」によると、2020年にがん領域を除く研究開発資金のうち、女性特有の疾患に充てられたのは、わずか1%にすぎなかった。

女性の訴えは、しばしば医師に軽視され、そして社会的に語るのがはばかられる話題として扱われている。

2022年の「カイザーファミリーファンド女性の健康調査(Kaiser Family Fund Women's Health Survey)」では、過去2年以内に医療機関を受診した女性のうち、29%が医師に訴えを無視されたと回答し、15%が「信じてもらえなかった」、13%が「自分に責任があるとほのめかされた」と答えている。

しかし、それが「当たり前のこと」であり続けてあってはならない。いま、女性たちは声を上げ始めている。長年続いた社会規範を打ち破り、健康とウェルネスに対して、より包括的なアプローチを模索している。

では、私たちに何ができるのか。

これまで語られにくかったテーマを、声に出して語る

女性は人生の3分の1以上を、閉経(更年期前後)の状態で過ごす。睡眠障害、気分の落ち込み、ほてり(ホットフラッシュ)、体重増加など、症状は多岐にわたるが、治療を受ける人はごくわずかだ。

メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)によると女性に治療が行き届かない原因は、研究と認知の不足にある。その結果、経済的損失も深刻だ。


更年期症状による労働損失によってアメリカ経済は年間約18億ドル(約2700億円)を失っており、医療費などを含めた総コストは266億ドル(約4兆円)にものぼる。

妊娠期においても同様の問題がある。妊娠の4件に1件は流産に至り、8人に1人の女性が不妊治療を必要としているにもかかわらず、これらの問題はほとんど語られないままである。

しかし風向きは変わりつつある。こうした問題は、著名人による体験の共有によって、メインストリームの議論に浮上し始めている。

ナオミ・ワッツの近著『言ってもいいですか? 更年期について知っておきたかったこと(Dare I Say It: Everything I Wish I'd Known About Menopause)』や、メーガン妃による「ニューヨーク・タイムズ」紙への寄稿が好例である。また、「Alloy」「Joylux」「Maven Clinic」などのフェムケア企業も、この変化を後押ししている。

「長生き」の定義をアップデートする

私たちは皆、「より長く、よりよく生きたい」と願っている。それゆえに、「健康長寿」という言葉の中身を、いま再定義する時が来ている。

長寿はもはや、年1回の健康診断や病気の治療、食事、運動、睡眠だけでは説明できない。いま求められているのは、心身の両面に目を向けた包括的な健康観だ。

これは特に平均寿命が長く、多様な医療や治療に関心を寄せる傾向の強い女性にとって重要なシフトでもある。


研究によれば、「ウェルビーイング(幸福感)」と自己認識は、寿命の延伸と同様に不可欠な要素とされる。

世界1万5000人を対象に、外見・内面・幸福感の相関関係を明らかにした初の国際的研究である「メルツ・エステティックス」社が発表した調査「自信の柱(Pillars of Confidence)」でも、回答者の74%が「自信は健康全体に不可欠」と答えている。

企業も細胞レベルで皮膚の健康を再生・維持・強化する製品や技術の開発を進める他にも、脳の可塑性に注目したニューロテクノロジーや、PRP(多血小板血漿)療法などの再生医療、そして「バイオハッキング」という概念にも注目している。

「長く、そしてより良く生きること」が、いまや現実的な目標となりつつあるのだ。

STEM分野にもっと多くの女性を

変革は、まず内側から始めなければならない。

医学部の学生の半数を女性が占めるようになるなど、進展は見られるものの、道のりはまだ長い。いまだ臨床医の3人に1人しか女性はいない。また、男女間の収入格差は非常に大きく、40年のキャリアで男性医師よりも女性医師は約200万ドル(約3億円)も生涯年収が少ないとされる。


しかも、女性医師による診療を受けた患者の方が、死亡率・再入院率ともに低いという研究結果があるにもかかわらず、こうした格差是正の動きは進んでいないのだ。

変化を望むならば、私たちは次のようなことを実践しなければならない――

「アメリカ医学女性協会(AMWA)」や「ウィメン・イン・メディシン(Women in Medicine)」といった、女性医師の団体を支援する。賃金の透明性を求めて声を上げる。政策決定者に働きかける。そして、STEM(科学・技術・工学・数学)分野に関心をもつ少女たちの背中を押す。

彼女たちは、これまでになく、社会に必要とされている存在なのだから。


テリー・L・フィリップス(Terri L. Phillips)
医学博士、米国小児科学会専門医、メルツ・エステティックス社(Merz Aesthetics)で5年以上にわたり、最高医療責任者(CMO)を務めている。

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