母親が男児を女子トイレに連れて行くことについて交流サイト(SNS)で賛否の声が上がる(写真はイメージ)=ゲッティ

 母親が男児を連れて女子トイレを利用する行為は、是か非か――。こんな議論がたびたび交流サイト(SNS)で巻き起こる。

 公園や施設のトイレでは、子どもが性犯罪に巻き込まれるケースが報道されてきた。

 「子どもを一人でトイレの外で待たせたり、男子トイレを使わせたりするのは心配」と男児の女子トイレ利用に理解を示す声もあれば、「子どもといえども男性が女子トイレに入るのは安心できない」といった反対論もある。

 子どもとの外出機会が増える冬休み。親子にとって、安心安全なトイレ利用のあり方を専門家と考えた。

子どもの性被害、性別問わず

 <女子トイレに男児を連れてこないでほしい>

三鷹駅北口にある公衆トイレ=東京都武蔵野市で2025年12月21日午後3時36分、山本萌撮影

 <男児側も入りたくて入っているわけじゃない>

 <女性の嫌だという気持ちを無視するのか>

 SNSでは、子どものトイレ利用を巡ってさまざまな声が上がる。

 男児をつれて女子トイレに入る保護者が恐れるのは、子どもの性被害だ。

 内閣府男女共同参画局が2023年6月に公表した「こども・若者の性被害に関する状況等について」によると、子どもを含む若年層の26・4%が何らかの被害に遭っている。

 男性の被害は内容によって女性に比べ3分の1から半数程度にとどまるものの、決して少なくない。

政府広報室が内閣府男女共同参画局の資料に基づいて作成した、身体接触を伴う性被害に最初に遭った年齢のグラフ=政府広報オンラインのホームページより

 また、身体接触を伴う性被害に最初に遭った年齢は、未就学児3・6%▽小学生13・7%▽中学生20・3%▽高校生35・9%▽19~20歳15・8%▽21~24歳10・6%--となった。

 また、性被害は潜在化しやすい。法務省が昨年1~2月に実施した犯罪被害実態(暗数)調査によれば、過去5年間に性的な被害に「遭ったことがある」と答えた人のうち、捜査機関に被害を届け出たと答えた人は25%にとどまった。

 公衆トイレは人目につきにくい場所にあり、中の様子もうかがいにくい。子どもに対するわいせつ行為や盗撮事案もたびたび報道されてきた。

 11年3月には熊本市で、両親とスーパーへ買い物に来ていた3歳女児が一人でトイレに向かったところ、男に多目的トイレへ連れ込まれ、わいせつ行為を受け殺害されるという事件も起きた。

「他に選択肢がない」悩む男児母

 「息子を女子トイレへ一緒に連れて行く以外の選択肢は考えられません」

 表情を曇らせるのは、神奈川県内に住む30代女性だ。

 夫と子ども2人の4人暮らしで、長女は0歳、長男はまもなく3歳になる。

 「週末は私一人で子どもたちの面倒を見るワンオペになることが多いです」

 外出先に多目的トイレがあればいいが、スムーズに利用できるとは限らない。

 「あったとしても一つで、永遠に空かないのではと感じるくらい待たされることもあります」

 また、多目的トイレは子連れ以外にもニーズがある。女性は「もっとほかに必要とされている人がいるのではと思うと、多目的トイレを使うことは気が引けます」と肩を落とす。

性別に関係なく誰でも利用できる個室を設置している公衆トイレ=東京都渋谷区で2024年5月17日午前10時8分、小田中大撮影

 男児の性被害も多く、目を離すのは怖い。「小学生くらいまでは息子も女子トイレに一緒に連れて行くと思います」

子ども同士の性的トラブル懸念

 一方、女児を育てる保護者の胸中は――。

 東京都内で2歳の女の子を育てる30代女性は「子どもを一人でトイレに行かせたくない気持ちは理解できる」と前置きした上で、複雑な感情を明かす。

 「乳児ならともかく、一人でトイレができる年ごろの男の子の場合は、女子トイレにいると少し嫌な気持ちになることもあるんです」

 近年は、子ども同士の性的トラブルも報告されている。インターネットで誤った性知識が得られる環境も背景にあるようだ。

 「成長のスピードが子どもによって違うこともよく理解していますが、例えば男の子が女子トイレで周囲が嫌がっているにもかかわらず性的な言動をした場合は、すぐに保護者が止めてほしいです」

専門家「小学生でも付き添って」

 子どものトイレ利用に関するガイドラインはあるのだろうか。

東京未来大の出口保行・副学長=本人提供

 「男児が女性用トイレを利用してよい年齢を一律に何歳、と決めるのは難しいです。ただ、小学校に入学するタイミングで線引きをするのが一番分かりやすいのではないでしょうか」

 足立区の防犯専門アドバイザーも務める東京未来大の出口保行・副学長(犯罪心理学)は、こうアドバイスする。

 実は、公衆浴場に関しては一定のガイドラインがある。国は20年12月、混浴に関するトラブルなどを防止する目的で「公衆浴場における衛生等管理要領」を改正し、混浴制限年齢を「10歳以上不可」から「7歳以上不可」に引き下げた。

 母親が男児を連れて女湯に入れるのは、子どもがおおむね未就学児である場合ということだ。

 出口さんは「体の性的な発達は小学校高学年ごろから始まりますが、子どもがプライベートゾーンを意識し始めるのは5歳ごろから。トイレ利用についても未就学かどうかで判断するのが合理的ではないでしょうか」と説明する。

 また、肝心なのは公衆トイレを利用する場合に限らないが、絶対に子どもを一人にしないことだという。

 「女子トイレに男児を連れて行く場合も、抱っこで個室を使う分には大きな迷惑にならないと思います。反対に女子トイレの中であっても個室の外で一人で待たせてしまうなら危険性は増します。性犯罪目的の誘拐事件は後を絶たず、とにかく子どもを一人にしないことが大切です」

 出かける際には目的地のトイレを調べておくと安心だ。子どもが公衆トイレを利用する際は保護者がそばを離れないようにしたい。【山本萌】

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