「検測準備完了、了解です。発車します」。京王電鉄の総合高速検測車「DAX」。全長約20メートル、実験室のような車内に電動車からの声が響き渡りました。
DAXはだいたい2カ月に1回、レーザーやカメラ、センサーなどを使って線路や架線の状態を調べます。8月から車でいう車検にあたる「全般重要部検査」を受けていました。
12月初旬、検査明け最初の検測走行に入るということで、同乗し取材をさせてもらいました。普段はカーテンが閉められているその内部に迫ります。
パンタグラフ周辺にはカメラやレーザー光のセンサーなどが取り付けられ、架線の高さや支障物の有無などを検知して車内にリアルタイムでデータを送っています。
車内には長い机があり、ずらっとモニターが並びます。半分が架線検測用、もう半分は軌道検測用で、それぞれ2、3人の検測担当者がつきっきりでチェックします。
「(列車に電力を供給する)トロリ線の摩耗や、高さ、横へのふれ方を検測しています」と、同社電力管理所の蝦名新紀さん(54)。モニターには、パンタグラフの映像、架線や付属設備の相対的な位置が、リアルタイムで表示されています。
「ここではデータとして見られないので、ちゃんと測定されているかを監視している状態です。実際のデータは事務所に帰ってから見ます」
現在、DAXによる架線・軌道の検測は井の頭線を除く京王線全線を2日間に分けて行っています。車体のゆがみや動揺を各種センサーで補正することで、通常の電車と同じ速度で走りながら検測できます。
2008年にDAXによる検測が始まる前は、夜間の終電から初発電車までの間、電気を止めた状態で行うしかありませんでした。「1日3~4駅間分だけしか測れない。時間的な短縮という意味で、DAXの方が早いです」
一方、台車周りにもうけられた装置では、レールの間隔や、高低など、線路に関わる項目を測定し、いずれも車内のモニターに波形や数字として表示。各目安を超過した場合、数字が青や赤といった色で表示され、異変のある箇所が一目でわかるようになっています。
「列車の乗り心地等にもつながりますので、検査を厳しく行って、お客様に(安全で快適な移動を)提供できたらいいなと思って臨んでいます」と工務部保線担当の八戸順平さん(46)。データは事務所で丁寧に確認され、保線の計画に役立てられます。
ちなみに、DAXはけん引車である両端の「デヤ」、資材運搬用の無蓋(むがい)車「サヤ」と共に、計4両編成で走ります。1日密着すると、車端部の窓からは、東京都渋谷区のビルの谷間、多摩地区の住宅街、そして紅葉の山あいを無蓋車がひた走る、不思議な展望風景を見ることができました。
最高時速110キロで走るお医者さん「DAX」。京王線の線路を守り続けています。【渡部直樹】
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