もうすぐお正月。風物詩として子どもたちが楽しみにしているものの一つがお年玉だ。長く続く文化だが、金額や渡し方には世相がにじむ。来年のポチ袋には、どんな時代の空気が込められるのだろうか。
お年玉にも「物価高影響」4割
学研教育総合研究所が小学1年~高校3年の男女計2400人を対象として11月に行ったインターネット調査「小学生・中学生・高校生白書2025」によると、今年の正月にもらったお年玉の総額平均は小学生2万3158円▽中学生2万9533円▽高校生2万7724円――となった。
小学生は前年調査から平均2933円の増加、中学生は同2034円の増加、高校生は同239円の減少となっている。
一方、お年玉を「渡す側」の調査もある。
市場調査会社「インテージ」(東京都)が先月、15~79歳の男女5000人に対して2026年正月のお年玉を用意するか尋ねたところ、お年玉を「あげる予定」と回答した18歳以上(4869人)の割合は45・7%(前年46・6%)で、予算総額は平均2万4039円(同2万4775円)といずれも微減した。
インテージ社アナリストの森恵美子さんによると、物価高や円安がお年玉に「影響する」と答えた割合は昨年から2・4ポイント増えて40・2%にのぼる。
「新型コロナウイルスが23年に(感染症法上の分類が)5類に移行したことによって人流が回復しましたが、物価高を背景に帰省を控える人がじわじわ増えていることが予算減少に影響しているとみられます。これまでお年玉は子どもや孫を喜ばせられる一大イベントだけに社会のマイナスの影響を受けにくい傾向がありましたが、『聖域』ではなくなってきた可能性があります」
インテージの別の調査では、「実家に帰省する」と回答する人が近年減少傾向にある一方で、「旅行や帰省の予定はない」とした人が微増しているという。
大人は「喜ぶ顔が見たい」けど……
26年正月のお年玉調査では、あげる相手の年齢が高くなるほど、渡すお年玉の金額も上昇するというこれまでの傾向が続いている様子もみて取れた。
年齢ごとにみた場合「小学生未満」1000円以内▽「小学校低学年」2001~3000円▽「小学校高学年」「中学生」4001~5000円▽「高校生」「大学生等」9001~1万円――がボリュームゾーンとなっている。
一方、差が著しいのが、お年玉を渡す「方法」だ。
成人の回答では、渡す相手が「自分の子ども」「孫」「親戚の子ども」のいずれの場合でも「現金(手渡し)」と答えた人が9割超に上った。
理由は「現金の方がもらったという実感がわく」「現金の方がお金のありがたみが伝わる」「現金で渡すのが伝統」が多く、「現金を渡した時の子ども・孫の表情・笑顔が見たい」と回答した人も根強くいたという。
一方、26年正月にお年玉をもらう予定と回答した20歳以下に「お年玉をキャッシュレス決済でもらいたいか」を尋ねると、38・5%が「はい」を選択。今後もあげる側としては現金派が堅調に推移する一方で、もらう側はキャッシュレス派が伸びていく可能性が高いという。
同社の調査では年々キャッシュレスでもらいたいと回答する割合が増えており、森さんは「キャッシュレス決済がますます身近になりつつあり、キャッシュレスでもらいたい子どもの割合は今後も増えていく可能性があります」と分析する一方、「あげる側は現金の良さを根強く感じており、両者の乖離(かいり)は今後も続いていくと思います。帰省を控えることによって現金派の人とお正月に会う機会が減ることも、子ども1人あたりがもらうお年玉はあまり変わらない一方で予算が減少していく要因とみています」と話している。
「キャッシュレスお年玉」 欠点は
では、どんな渡し方がいいのだろうか。
「子どもにおこづかいをあげよう!」(主婦の友社)を監修した横浜国立大名誉教授の西村隆男さん(74)=消費者教育論=は「スマートフォンもキャッシュレス文化も生活に浸透しましたが、相手が子どもであればこそ、お年玉は現金で手渡す方が良いと思います」と指摘する。
懸念するのは、キャッシュレス決済の場合、現金の出入りが伴わない点だ。
「財布にお金が入っていれば、1000円札を使ったな、残りは500円だな、といった視覚的・五感的なお金の管理ができます。キャッシュレス決済は指先ひとつでお金が管理できる一方で、残高感覚に乏しくなってしまう。無制限に使えるという錯覚に陥り、スマホが『打ち出の小づち』のような存在になってしまっては金銭感覚を養うことができません」
また、お年玉やお小遣いを子ども自身が管理することも重要だと考える。
「お金が見える、ということが大切です。もらったお年玉やお小遣いを、自分のお金として管理し、使ってみる。良い使い方にならなかったとしても、失敗することも貴重な経験で、そうしてモノの価値や値段感覚を積み重ねていくのです。大人と同様に銀行口座を作ってためたお金が通帳に記帳されたり、ふだん使いに中身が見える貯金箱を用意して『ためる用』『つかう用』などと目的ごとにラベリングしたりすることも有効です」
「少ない」と言われたら……
では、実際に現金でお年玉を手渡し、「これだけ?」と子ども側にがっかりされたらどうするか。
前出の「子どもにおこづかいをあげよう!」を著した教育ジャーナリストで公認心理師の資格も持つ藍ひろ子さん(64)は「まずは気持ちに寄り添って子どもの話を聞いてみては」とアドバイスする。
つい叱ってしまいそうになるが、大切なのは「なぜ足りないと子どもが思ったか」だという。
「よほどのことがなければ、『少ない』と口にする子はいないと思います。足りないならいくら欲しかったのか、何が欲しいのかなど、子どもの気持ちを聞いて背景に目を向けてみてもよいと思います」
その上で提案するのは、お年玉の増額ではなく「お小遣いへの誘導」だ。
定期的に家事を手伝うなどした「対価」としてお小遣いをあげ、子どもが希望する使途に口出しはしない。
「その子に与えられているお金の範囲内であれば、体験型消費でも欲しいものを買ってもいいし、それで失敗してもいい。子どものうちから自分の裁量で判断してお金の管理・使い道を決めるという体験を積んでいけば、『失敗した』と自分でちゃんと気がつきます。その子を尊重しているという信頼の表れであり、子ども自身が自己肯定感を育むことにもつながるのです」
お年玉は、お金について自然な流れで子どもと話すチャンスかもしれない。【山本萌】
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