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<食べすぎに慣れた現代の体を、ファスティングが分子レベルで再生へと導く>

ファスティングはツラいものではなく、やっていて楽しくなるもの。数々のダイエットに挫折してきた著者が、「ファスティング」を再定義。

『シリコンバレー式 心と体が整う最強のファスティング』(CEメディアハウス)より第1章「あなたならではのファスティングを見つける」を一部編集・抜粋。


  ◇ ◇ ◇

ファスティングの効果とは何だろう? ひとつの重大なメリットは、インスリンの分泌量を抑えられることだ。

食事をすると、体は食べ物の炭水化物を主要な分子エネルギー源のひとつ、グルコースと呼ばれる糖に分解する。血液中のグルコース濃度が上昇し、これに反応して膵臓(すいぞう)は代謝ホルモンであるインスリンを分泌する。

インスリンは体内の細胞と結合し、グルコースを取り込んでエネルギーとして燃焼させる。最後に、体はコレシストキニンやレプチンといったホルモンを分泌し、「満腹だ、もう食べなくていい」というシグナルを送る。

これが本来の代謝システムなのだが、質の悪い脂肪が存在せず、常に手に入る甘いものといえばハチミツぐらいしかない時代に進化した繊細な生物学的メカニズムは、現代のビッグ・フードによっていとも簡単に混乱してしまう。

企業は絶えず安価な高カロリー食品を躍起になって売り込もうとしているし、しかもそれらはどれもこれも体にとってまったく望ましくない。手ごろな値段の高カロリー食品の魅力を高めようと、企業はそれらに合成香料や人工甘味料のほか、味をよくするためなら何だって混ぜ込む。

何も悪意のある誰かがあなたを病気にさせようとしているわけではない。企業経営者は自分の仕事、つまり収益を最大化し、コストを最小化しようとしているにすぎない。

だとしても、消費者の立場からすると、悪意があるかないかなどどうでもいい。重要なのは結果だ。スーパーマーケットの棚には、人間の代謝システムを狂わす加工された食品がぎゅうぎゅうに押し込まれている。

精製糖や低コストの炭水化物だらけの加工食品を食べると、体に摂り込まれる膨大なカロリーに体の反応が追いつかなくなる。加工された食べ物に含まれる多量の香料や甘味料も、消化器系の正常な「満腹」シグナルをかき乱し、問題を悪化させる。


消費エネルギーよりも摂取エネルギーのほうが多ければ、余分なグルコースは脂肪として蓄えられる。と同時に、膵臓はバランスを保とうと必死になって働きすぎてしまう。その結果、体はインスリンに対する反応(感受性)が鈍くなる。これが2型糖尿病の主な原因だ。

ファスティングはグルコースによるインスリン分泌をゆるやかにして、体を休ませる。そうした休息は、質の悪い食品を摂取している体にはなおのことありがたい。いつもの食生活がどんなものであろうと、ファスティングが誰にとってもメリットがあるのはそういうわけだ。

そもそも、短期間でも悪いものを口にしないのは健康にいい。食事を摂らない時間帯を作ると、体はそれまで蓄えていた糖と脂肪をエネルギー源として利用する。グルコース濃度は常に安定し、インスリン値は下がるだろう。

デューク大学医科大学院の内分泌学者エイドリアン・バルノスキーとその同僚は、断続的ファスティングがインスリン抵抗性[インスリン感受性が低下し、血糖値が上昇する疾患]の予防に役立つと結論づけた(*1)。

また、ファスティングがレプチン抵抗性[脳に満腹信号を送るホルモン、レプチンが作用していない状態]を防ぐのにも有効であることを示す、説得力のある臨床的エビデンスもある。

レプチン抵抗性はインスリン抵抗性の前兆なので、このエビデンスは重要だ。血糖値を上げるものでない限り、一定の食品を摂りつつファスティングのメリットのほとんどを得ることはできる。それが断食を模倣した食事法の原則なのだ。

ファスティングのメリットをもうひとつ。ファスティングは体内の自己清浄化プロセス、「オートファジー[細胞が自分の一部を分解するので、文字どおり「自食作用」とも言う]」を活性化させる。

毎日働いている細胞には、毒素や病原体、異常タンパク質、死んだ細胞の残骸が溜まっていく。そうした顕微鏡サイズのゴミにより細胞の正常な働きが損なわれ、きちんと分裂・再生しなくなる恐れがある。


オートファジーは、体内を掃除し、ゴミを集め、リソソームと呼ばれる極小の消化器官に捨てる一連の生体分子ツールである(*2)。細胞が順調に機能し続けるために、不可欠なプロセスだ。

ますます多くの研究が、オートファジーの活性化が老化を遅らせ、炎症を抑制し、体のパフォーマンス全体を向上させるのにも役立つことを示唆している。

ファスティングがなぜオートファジーを促すのか、研究者もまだ完全に理解しているわけではなく、研究のほとんどは人間でなくマウスを対象にしたものだが、生物学的メカニズムの機能は動物界ではあまねく同じと考えられる。

糖を運んだり脂肪を溜め込んだりするのに忙しくなければ、体はより多くのリソースを基本的なメンテナンスに利用することができる。

カリフォルニア州ラホヤにあるスクリプス研究所が行った最近の研究によると、ファスティング中の脳内では、古くなったニューロン(神経細胞)の清掃が活発に行われていた(*3)。

そのしくみは複雑でいまなお検証が続いているが、ファスティングがあなたの体を、分子レベルでより効率的かつ円滑に機能させることを明らかにする研究は増える一方だ。

たとえば、日本人生物学者のグループの2019年の発表では、58時間の断食──マウスでなく、人間の!──は、脂肪を分解しタンパク質構造を制御する化学経路に関与する44種の化合物の血中濃度を高めた(*4)という。

断続的ファスティングは、強力な抗老化分子、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)に影響を及ぼすことが証明されている。活性型NADはNAD+と呼ばれ、体内の化学反応がスムーズに進むように電子を伝達するという、一見単純に思える役割をもつ。


だが、この小さな分子はじつによく働く。NAD+のおかげで細胞はエネルギーを生成できるほか、NAD+はDNAのダメージ修復を助け、知的機能の低下を防ぐ鍵となる正常なタンパク質形成を促し、老化を進行させる大きな要因のひとつである容赦ない酸化ストレスから細胞を守る。

断続的ファスティングには、NAD+の血中濃度を高める効果がある。やったほうがいい。冗談抜きで。

【参考文献】
(*1)Adrienne R. Barnosky et al., "Intermittent Fasting vs Daily Calorie Restriction for Type 2 Diabetes Prevention: A Review of Human Findings," Translational Research 164, no. 4 (October 2014): 302-11,
(*2)Danielle Glick, Sandra Barth, and Kay F. Macleod, "Autophagy: Cellular and Molecular Mechanisms," Journal of Pathology 221, no. 2( May 2010): 3-12.
(*3)Mehrdad Alirezaei et al., "Short-Term Fasting Induces Profound Neuronal Autophagy," Autophagy 6, no. 6(August 2010): 702-10.
(*4)Takayuki Teruya et al., "Diverse metabolic reactions activated during 58-hr fasting are revealed by nontargeted metabolomic analysis of human blood," Scientific Reports 9, no. 854 (2019).

デイヴ・アスプリー(Dave Asprey)
起業家、投資家、シリコンバレー保健研究所会長。「ブレットプルーフ」創設者。カリフォルニア大学サンタバーバラ校卒業。ウォートン・スクールでMBAを取得。シリコンバレーのIT業界で成功するも肥満と体調不良に。その体験から医学、生化学、栄養学の専門家と連携して膨大な数の研究を統合し、100万ドルを投じて心身の能力を向上させる方法を研究。バターコーヒー(ブレットプルーフ・コーヒー)を考案し、ダイエットに成功した体験を『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』(ダイヤモンド社)にまとめ、世界的ベストセラーとなる。ニューヨーク・タイムズ、フォーブス、CNNなど数多くのメディアで活躍中。著書に『HEAD STRONG シリコンバレー式頭がよくなる全技術』『シリコンバレー式超ライフハック』(ともにダイヤモンド社)など多数。

『シリコンバレー式 心と体が整う最強のファスティング』
 デイヴ・アスプリー[著]/安藤 貴子[訳)]
 CEメディアハウス[刊]

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