マウスの体内時計に応じ、各臓器などでたんぱく質がどのように増減するかを調べる実験装置=吉種光・東京都医学総合研究所プロジェクトリーダー提供

 周囲の環境に合わせて体を整え、健康を維持する大切な仕組みの一つに「体内時計」がある。

 臓器がそれに合わせてオン・オフを繰り返すことで効率的に機能する一方、病気の発症にも関連する。

 リズムの全容が分かれば、新たな治療法や創薬につながると期待されている。

肝臓の休眠時間、食事はNG?

 体内時計は、地球の昼夜に合わせ、約24時間周期で規則的に繰り返す生理現象を支えている。人間では、各臓器が時間に合わせて働きに強弱をつけ、血圧や血糖、免疫、ホルモン分泌などと密接に関係する。

 関連する遺伝子の発見は、2017年のノーベル生理学・医学賞のテーマになった。

 このリズムを考慮し、薬を使う時間を調節する「クロノセラピー(時間治療)」が提唱されている。

 例えば、悪性リンパ腫の一種を発症した女性患者を調べたところ、化学療法は午後に行った方が効果的だとする韓国からの研究報告がある。

 スイスの研究者らは、乳がんは日の出直前に遠隔転移を引き起こしやすいとする結果を公表している。分泌されるホルモンの影響を受けるためと考えられ、適切な検査のタイミングなどを考慮する一つの指標になる可能性がある。

 体内時計を巡っては、人間における仕組みは分かっていないことも多く、マウスレベルでの全容解明が進んでいる。

 マウスの肝臓を調べると、体内時計に従って休息に備える遺伝子が現れるピークは夕方ごろ。さらに、肝臓で働く遺伝子をくまなく調べたところ、時刻によって異なり、バランス良く肝機能を調節していた。

 肝臓は活動期に代謝を増やす一方、食べ物がない休眠時間は代謝を減らし、適切な状態を保っているというわけだ。肝臓の休眠時間に食べると体への負担が大きく、体内時計のリズムを乱しかねない。

遺伝子→たんぱく質 進む研究

 このようにこれまでの研究は遺伝子に着目したものが多かった。

 しかし、実際に臓器で機能をつかさどるのは、遺伝子の情報を基に合成されるたんぱく質だ。マウスの肝臓でも遺伝子が現れるピークと臓器が休息する時間帯が12時間ほどずれるのはこのためだ。このたび、たんぱく質の日内変動をつぶさに調べた結果が出た。

 東京都医学総合研究所のチームは、体内時計によって、各臓器で日々作り出されるたんぱく質が、どんなサイクルで増減しているのかをマウス実験で明らかにした。

 実験では、体内時計に連動する約2万種のたんぱく質が見つかった。マウスと人間のたんぱく質では機能が一致しているものが多い。そのため、治療や創薬のターゲットになるたんぱく質が今後見つかるのではと期待される。

 哺乳類は脳に全身をコントロールする中枢時計があり、各臓器の末梢(まっしょう)時計を同調させている。研究チームは、この末梢時計に合わせ、各臓器で作り出される各種たんぱく質の周期性に着目した。

 マウスの脳や肝臓、心臓、肺、消化管など全身32の臓器と組織を4時間ごと計6回にわたって採取。計584サンプルから1万8956種類のたんぱく質を見つけ、いつ、どこで、どのたんぱく質が働いているかを、経時的に知ることができるデータベースを構築した。

 例えば、肝臓では複数のたんぱく質が関与して酵素の働きを制御し、肝機能のリズムを決めていた。生活習慣の乱れなどからリズムが狂った状態が続くと、機能の不具合や病気の発症をもたらすと考えられる。

 その原因となるたんぱく質を知ることができれば、予防や治療に役立てられる可能性がある。

「クロノセラピーの精度上げられる」

 今回の研究で、遺伝子量とたんぱく質の量とでは、ずれがあることも分かった。たんぱく質をベースにした研究で、新たな事実が明らかになると期待される。

 チームの吉種光プロジェクトリーダー(時間生物学)は「標的となるたんぱく質が増えたタイミングで投薬する既存のクロノセラピーの精度を上げることが可能になる」と話す。

 成果は米科学誌モレキュラー・セルに掲載された。【渡辺諒】

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