岡山県玉野市の宇野港と高松市の高松港の距離は約20キロだ。瀬戸大橋や大鳴門橋など本州四国連絡橋がなかったころ、両港を結ぶ「宇高(うこう)連絡船」が大動脈だった(1988年廃止)。私も幼いころ、盆暮れに東京から高知へ帰省する両親と一緒によく乗った。
1月某日、半世紀ぶりに両港間の懐かしい海に浮かんで、マダイを狙った。本連載のタイトルを踏まえ「高松沖」としたが、実際は宇野港から船に乗り、豊島(てしま)や直島(なおしま)など岡山寄りで釣った。魚は変わらないので、20キロ以内の誤差をどうかお許しいただきたい。
マダイは3~5月に産卵期を迎え、浅瀬で荒食いする(これを「乗っ込み」という)。この時期は体が薄桃色に染まるため「桜鯛」と呼ばれ、定置網の水揚げが春の風物詩としてニュースで流れる。美しいネーミングだが、味はどうなのか。
漁師に怒られそうだが、私の経験では産卵期は味が落ちる。栄養が真子(卵)や白子(精巣)へ回り、痩せてくるのだ。産卵を終えた直後は身がスカスカ、脂ゼロで「麦わら鯛」と酷評される。その後、徐々に栄養を蓄え身が回復。「紅葉鯛」と称される秋は脂がのっておいしくなる。
では、味のピークはいつなのか。乗っ込み直前の1、2月。まさに今である(私見であり、異論は認めます)。しかも海苔(のり)養殖が盛んな瀬戸内海ではこの時期、成長してちぎれ、海中を漂う海苔をマダイが食い、上品な香りが身に移るのだ。
今回はチョクリ釣りでマダイを狙った。1メートルほどの間隔で7~8本の針をつけ、いちばん下にオモリを下げた長いサビキ仕掛けで、針に緑色や紫色のビニール片を結ぶ。これを水中で上下させて誘う。文字通りビニール片で魚をおちょくるわけだが、簡単ではない。仕掛けの巻き速度がだめなのか、私だけ釣れない。最後にコツをつかみ、なんとか8枚釣った。
50センチ超の立派な1枚は刺し身に。皮を引いた身に脂が浮かび、照り輝いていた。残り40センチ弱のサイズは煮付けや塩焼きでいただき、一部は背開きの干物にした。一年で今だけしか味わえない瀬戸内の極上海苔真鯛。もっと釣りたいものだ。【井上英介】
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