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2020年に立ち上げたブランド「錺之」の商品。スマホケースなどに、培ってきた和柄の装飾技術が施されている=京都市伏見区、武田憲久撮影

 きらびやかな装飾技術で、神仏の世界を彩る錺(かざり)金具。培った技術を生かし、新風を起こしているのが京都市伏見区の「錺金具竹内」です。入社4年目の前田朋香さん(29)は、彫金師として将来を期待されています。

量産品から一点物まで幅広く

 落語家の桂天吾さんが作業場を訪れると、「コン、コン」という金属音が響き渡っていた。

 金づちとたがねを使って、銅や真鍮(しんちゅう)の板に線や点を彫り込む職人たち。仏壇や仏具などに用いられる金具を、量産品から一点物まで幅広く手がける。

 前田さんは、唐草と魚々子(ななこ)の模様を制作していた。

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前田朋香さん(右)の彫金を見学する桂天吾さん=京都市伏見区、武田憲久撮影

 板に打ち付けられた点が、魚の卵のような見た目から名付けられたという魚々子。「めっちゃ、細かい」と驚く天吾さんに、「基本の模様です」と説明する前田さん。「だからこそ奥が深く、難しさもあります」と付け加えた。

 天吾さんは、古典落語の「つる」から生まれた「つるを笑うものはつるに泣く」という言葉を紹介。「『つる』は必ず取り組む基本のはなしですけど、しっかり笑いを取るのが難しい。まさに『魚々子を笑うものは魚々子に泣く』ですね」とまとめた。

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金づちとたがねを使い、銅板に点を打ち込んでいく前田朋香さん=京都市伏見区、武田憲久撮影

無心になって彫る

 大阪の工芸高校で金属加工に魅せられ、大学でも専門的に学んだ前田さん。卒業後は、住宅や家具などの補修会社に就職したが、金属を扱う感覚が忘れられず、転職を決断した。その後、ホームページで求人を出していた同社と出会った。

 仕事の魅力について「無心になって彫り続けるのが性に合っている」と話す。

 職人の門をたたいて4年。この道50年以上の先輩と比べると「金づちやたがねの使い方がまだまだ下手だし遅い」という。「今の技術で満足せず、もっともっと腕を上げていきたい」と向上心は尽きない。

 天吾さんは「金づちの音がいい。ずっと見ていられる」と前田さんの作業を見守った。

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どのように模様を入れていくのか、前田朋香さん(奥)から説明を聞く桂天吾さん=京都市伏見区、武田憲久撮影

培った技術、アクセサリーに

 錺金具は古くから神社仏閣、仏壇、祭りのみこしなどを細かな手仕事で装飾してきた。しかし現在はライフスタイルの変化などにより、業界が縮小傾向だという。

 厳しい状況は1967年創業の同社も例外ではない。その中で竹内直希社長(43)は2020年、新たなブランド「錺之(かざりの)―KAZARINO―」を立ち上げた。

 販売している商品は、ピアスやバングル(腕輪)、マネークリップやスマホケースなどのアクセサリーや小物たち。唐草や七宝など、錺金具で使われる和柄が施されている。

 「装飾金物を作り続けてきた技術を生かし、日常で使ってもらえる品をめざしました」と話す竹内社長に、天吾さんは「どれもおしゃれ。模様も細かくて美しい」と商品を見つめた。

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錺金具を組み合わせて作られたオブジェ=京都市伏見区、武田憲久撮影

 女性目線を意識した商品のアイデアは、前田さんも重要な役割を担っている。「『今度は何を作ろうか』といった雑談を社長や職場の女性とよくしています」

 自身が提案した髪留めのバレッタは、昨年末に新作として登場した。今後は伝統から離れたデザインの考案にも意欲を見せる。

 普段担当している仏壇金具は、同世代の友人たちには十分に知られていないと感じている前田さん。「錺金具になじみのなかった人にも知ってもらえるような商品を、これから作っていきたいです」と力を込めた。

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錺金具竹内の作業場。両端には、これまで制作した金具のサンプルが保管されている=京都市伏見区、武田憲久撮影

職人のプロフィール

 まえだ・ともか 1997年大阪府生まれ。大阪芸術大で鍛金などを学ぶ。休日に訪れるアクセサリー店で、新製品のアイデアをめぐらせることも。

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錺金具職人の前田朋香さん=京都市伏見区、武田憲久撮影

連載「桂天吾がゆく 伝統を受け継ぐ職人たち」

伝統文化の担い手が減るなか、その道に飛び込み、継承しようという若手職人たちがいます。関西で注目の落語家・桂天吾さんが現場をたずね、その思いを紹介します。

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