「ウンチのニオイを薄めると、なーんと、ジャスミンの香りに。汗のニオイは、凝縮するとリンゴの香りになるんですよ~」。こう語るのは、臭気判定士と呼ばれる国家資格を持つ木村俊哉さん(44)。入社以来20年、ニオイの不思議に魅せられてきました。

カンサイのカイシャ ここがオモロイ!

 木村さんが勤めているのは、JR京都駅前に本社を構える第一工業製薬だ。創業以来、医薬品はつくったことがない。「こたえる、化学。」を合言葉に、化学素材で社会課題の解決に挑む原料メーカーだ。

 微生物の力で環境汚染物質を分解する生物プロセス工学を専攻した木村さん。配属されたのは工場などの悪臭を消す薬剤を開発する部門だった。一見すると、「悪臭」とは無縁な洋菓子やウナギのかば焼きなどの工場も、悪臭防止法の対象になりうるらしい。良い香りでも四六時中かぐと、苦痛に変わるためだ。

 人間にとってニオイはなくてはならないもの。腐敗臭がするから食べずに済むし、本来は無臭のガスにわざと臭いをつけてガス漏れを察知している。

 「『ウェーバー・フェヒナーの法則』と言うんですけど、ニオイの原因物質をたとえ97%除去しても、不快感はようやく半分に減る程度。だからこそ、対策は難しいんです」

 そんな木村さんに4年前、会社から指示が飛んだ。「これまで培った技術で一般向けの消臭剤を開発せよ」。既存の消臭剤の多くが、不快なニオイを強い香りで「覆い隠す」タイプで、「香害」の原因になることもある。会社が求めたのは全く新しいタイプの消臭剤を作ることだった。「ニオイを覆い隠すのではなく、『中和』して消す。自信はありました」

 お手本になったのが森林の営みだ。本来、動物の屍臭(ししゅう)や植物の腐敗臭が満ちあふれているはずの森林で、なぜ人は心地よい香りを感じ、森林浴ができるのか。それは、木々が発する揮発性物質フィトンチッドなどが悪臭を中和し、消し去ってくれるからだ。

 「色の三原色」を混ぜると黒に近づく。一方、「光の三原色」は混ぜると白に近づく。悪臭を覆い隠す手法は前者、中和する手法は後者のイメージだ。

 木村さんは天然精油にこだわり、悪臭を限りなく「白」にする香りの組み合わせを追求した。前夜の深酒やニンニクは御法度、鼻の利く午前中が勝負だ。レモンやベルガモットなど、柑橘(かんきつ)系をベースに9種の香りを選び、配合を考え抜いた。クレオパトラが愛したというフランキンセンスも加え、高級感も演出した。

 雑音を消す「ノイズキャンセル」のようにニオイをキャンセルするスプレーだから「NIOCAN(ニオキャン)」。2023年6月に発売すると、「ペットの粗相のニオイが消えた」「カーテンについた焼き肉のニオイに効いた」などと、通販サイトの口コミには高評価がつくようになり、置いてもらえる店も少しずつ増えてきた。

 「将来は介護施設や病院でも使ってもらえたら」と木村さん。臭気判定士として働く社員は長らく木村さん1人だったが、会社が養成に乗り出し、今では4人に増えた。ニオイビジネスに商機あり!だ。

会社メモ

 第一工業製薬 1909年、西本願寺前の香の老舗「負野(おうの)薫玉(くんぎょく)堂」の一角で創業。リンスなどの界面活性剤や口紅の原料、食品の乳化剤、軟弱地盤の止水材、生成AIの電子基板材料など、暮らしを支える「縁の下の力持ち」。昭和世代には、毛糸洗いの中性洗剤「モノゲンユニ」が懐かしい。無料社食が自慢。

ひとこと

 唐揚げが自慢の店「キラボシ」を経営する下口裕子さん(52) アロマ好きの従業員の勧めで「NIOCAN」を使い始めました。店の近くの会社の商品と知ってびっくり。帰宅前にはシュシュッとスプレー。おしゃれなボトル入りで香りが良く、癒やされてます。

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