定年後の再雇用をめぐり、仕事内容は同じなのに、基本給などの賃金を大幅に減額されたことが不当だとして、名古屋自動車学校(名古屋市)の元教習指導員の男性2人が差額分の支払いなどを求めた訴訟の差し戻し審で、名古屋高裁(片田信宏裁判長)は26日、基本給について、仕事内容に応じた「職務給」の性質が大きく、若手職員との間に大きな違いがあることは不合理だなどと判断し、自動車学校側に差額分の一部を支払うよう命じた。
一方、差し戻し前の一審・名古屋地裁判決(2020年10月)と二審・名古屋高裁判決(22年3月)は、不合理かどうかの線引きを、定年時の水準の60%としていたが、今回の判決は約55~57%にあたる金額を示した。すでに支払い済みの手当もあり、命じた金額は約625万円から約336万円に減額された。原告側は上告する方針。
原告2人は60歳の定年後に嘱託職員として再雇用された。仕事内容が同じだったが、基本給が定年前の約16万~18万円から、約7万~8万円に下がったなどとして差額の支払いを求めていた。
差し戻し前の二審判決は、基本給について、定年前後で職務内容に違いはないのに、若手職員よりも低い点を問題視。基本給が定年時の60%を下回るのは、労働契約法旧20条が禁じる不合理な格差に当たり、違法と判断。これに対し、最高裁第一小法廷は23年7月、基本給の性質についての検討が欠けているとして、審理を差し戻していた。
今回の判決は、指導員の基本給額のばらつきが事務員に比べて小さいことなどから、基本給は、指導員という仕事内容に対する職務給としての性質の割合が高いと判断した。嘱託職員の基本給も「同質だと言える」と判断。同じ指導業務をする若手を大きく下回ることは「不合理性を基礎づける」と指摘した。ただし、不合理となる水準は、差し戻し前の判決が定年時の60%を下回る額を挙げたのに対し、「事情を総合した」として、原告の1人に対し10万円(定年時の約55%)、もう1人に対し9万5千円(約57%)とした。
原告側代理人の中谷雄二弁護士は「基本給が職務給的な性格が強いと認定した。かなり前進した認定だ」と評価した。一方で、「なぜ(線引きが)あの金額になるのかがさっぱり理解できない」などと批判した。
判決を受け、名古屋自動車学校は「責任者が不在なのでコメントできない」とした。
「基本給は職務給」画期的
水町勇一郎・早稲田大学教授(労働法)の話 これまでの裁判例にはない判断で、画期的な判決だ。6割の根拠はわからないが、基本給の目的や性質を検討した上で、職務給の部分が大きいと判断し、賞与についても同率で払えと判断している。労使交渉の経緯も検討し、使用者側の態度に問題があるとして、判断の根拠とした点も特徴だ。今回の判決によって、実務上は「4割を超えて下げるのは駄目だ」という認識が広がるのではないか。
「60歳の壁」是正が課題 待遇改善の流れ、後押しする判決
若い働き手が減るなか、高齢者の待遇改善は企業活動を続ける上で重要な要素となっている。だが、60歳を超えると賃金が下がる「60歳の崖」という状況が続いてきた。26日の名古屋高裁判決は、企業にそうした「崖」の是正を改めて求めるものだ。
高年齢者雇用安定法は、①定年制の廃止②定年の引き上げ③再雇用制度、のいずれかの方法で、60歳を超えても雇用を確保するよう企業に義務づけている。
定年を引き上げる企業も増えつつあるが、大企業を中心に再雇用を選ぶ企業が主流だ。厚生労働省の2025年6月時点の調査では再雇用が65.1%を占める。
再雇用では、60歳定年前の賃金水準をいったんリセットし、1年などの有期労働契約に切り替えることになる。再雇用は有期労働契約で、労働契約法旧20条(現・パート有期雇用労働法8条)の対象になり、定年前との不合理な格差は違法とされる。
不合理かどうかは、①仕事内容や責任の程度②異動などの人材活用の仕組み③その他の事情、の3要素が総合考慮される。再雇用なのに、仕事の内容や責任の程度が大きく変わらず、転勤もあるとすれば、待遇差は労使間の火だねになりかねない。
今回の判決では、基本給について、仕事内容に応じた「職務給」の性質が大きいとし、定年前の正職員と定年後の嘱託職員の基本給は「同質だといえる」と指摘。同じ業務をする若手職員よりも基本給が大きく下回ることも「不合理性を基礎づける」との判断を示した。
近年は高齢者のモチベーションを維持するため、賃金体系や評価システムを60歳前とそろえる企業も目立ち始めている。
内閣府の2024年の調査では、賃金を定年前の7割程度以下とする企業の割合は5年で15%ポイント減った。逆に、8割程度からほぼ同程度とする企業が15%ポイント増えている。
法律の内容を具体的な指針にした「同一労働同一賃金」ガイドラインの見直し案には、再雇用という理由だけで待遇差が認められるものではないことが明記された。加えて、無期雇用であっても「同一労働同一賃金」の趣旨を踏まえることも求めている。
今回の判決は、こうした高齢者の待遇改善に向けた流れを後押しすると言える。
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