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<なぜ筋トレに「クールダウン」は不要なのか? 神経系を目覚めさせるウォームアップの科学>
日本でも定着した「自重トレーニング」。そのきっかけは、2017年に邦訳版が刊行された『プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』(CEメディアハウス)だった...。
元囚人でキャリステニクス研究の第一人者ポール・ウェイドが語る、筋肉について。「CHAPTER 11 体を鍛える時の知恵」より一部編集・抜粋。
◇ ◇ ◇
ウォーミングアップ
モッツァレラチーズの厚いスライスを冷蔵庫から取り出し、引っ張ったらどうなるか想像してほしい。簡単にちぎれる。そうだろう?
しかし、同じスライスを電子レンジに入れて数秒間加熱すると、やわらかくなって伸びるので簡単にはちぎれない。筋肉細胞も似たようなものだ。
冷たくなっている時は、細胞レベルで繊細になり、ストレスを受けると傷つきやすい。温かくなると、そこに伸縮性と柔軟性が生まれる。思慮深いアスリートが運動前にウォーミングアップを行う理由がこれだ。
ケガのリスクを軽減するだけでなく、神経系を目覚めさせ、関節の周囲に衝撃吸収性がある新鮮な滑液を送り込み、本番(ウォーミングアップ後のワークアウト)に心を集中させるためだ。
どの程度のウォーミングアップが必要かは、気温、コンディション、年齢によって異なってくる。年齢が高いアスリートは若者より少し長めにウォーミングアップする必要がある。わたし自身は、長くやるのは好きではない。
本番のトレーニングのほうが好きだからだ。ウォーミングアップを段階に分けて行う者も多い。心臓に血液を送り込む有酸素運動、何種類かのストレッチ、それから、今回のエクササイズで実際に使う筋肉を温める軽い筋トレ。1時間近くウォーミングアップしている者さえいる。
それではやり過ぎだ。すべてをやる必要はない。ウォーミングアップの最も効果的な方法は、本番で実行する予定の動作の簡単なバージョンを肩ならしに行うことだ。
年齢が若く、関節に問題がない場合はウォーミングアップを2セット、高齢や体ができていない、あるいは気温が低い場合は、3~4セット行う。それ以上になると、車輪を廻しているだけになる。
唯一の例外は、ケガをしている時だ。その場合は、ケガをした部位にミニ・ウォームアップを施すといい。
おだやかなストレッチを最初にやり、痛みを伴わないやや多いレップス(30レップス以上)のウォーミングアップを行う。ワークアウトの前にこれだけやれば、ケガをした部位に血液が流れ込んで、そこを保護してくれる。
必要とするウォーミングアップ量は人によってひどく異なる。だから、その正確なやり方を伝えることは困難だ。経験則から言うと、1セット20レップスから始め、次に、同じ系統の動作を15レップス行う。
それでOKなら本番へ。ウォーミングアップは、スタートから飛ばしすぎないように。2セット行うウォーミングアップは、ともに最大値の約50%に抑える。
プッシュアップを例にすると、少なくとも40レップスできるエクササイズを1セット目に選択し、2セット目には30レップスできるものを選ぶ。2セット目はレップス数が少なくなるので、1セット目と比べてきつく感じるエクササイズを選ぶ。
ウォーミングアップの最初のセットで、本番で動作させようとしている筋肉に「空気を入れる」。2セット目に入ると、筋肉が駆動して少し燃える感じがする。両方のセットの後では、筋肉が刺激され、本番への備えができていなければならない。
もちろん、疲れるほどやってはだめだ。ウォーミングアップで行うエクササイズは、本番のワークアウトで行うビッグ6[プッシュアップ/スクワット/プルアップ/レッグレイズ/ブリッジ/ハンドスタンド・プッシュアップ]シリーズの最初のほうのステップで構成する。
たとえば、現在、プッシュアップ・シリーズのクローズ・プッシュアップ(ステップ6)をやっているとする。
この場合、最初のウォーミングアップは、ステップ2のインクライン・プッシュアップを20レップス行い、2セット目のウォーミングアップは、ステップ3のニーリング・プッシュアップを15レップスやることになる。全体を通すと以下のようになる。

シリーズの最初のほうのステップに取り組んでいる場合、このルールを使うことはできない。取り組んでいるエクササイズそのものをウォーミングアップに使うことになる。
そこは自由裁量で。年齢、気候などにより、ウォーミングアップがもっと必要な場合は、2セット目のウォーミングアップを12レップスにして、最大で計3セット行う。
クールダウン(ウォーミングダウン)をすすめるトレーナーもいる。クールダウンという概念はヴィクトリア運動のイデオロギー派がつくったものだ。彼らは、心拍があまりに速く減速すると体内のどこかが損傷すると信じていた。
いまは、この概念が真実ではないことがわかっている。クールダウンすると、翌日の痛みがなくなると言う人もいるが、わたしはその効果を実感したことがない。また、信じてもいない。
クールダウンはさらなるワークを筋肉に課す。さらなるワークで、どうダメージを減らすというのか?
この単純な理由から、わたしは、体系だったクールダウンを行わない。激しい練習の後は、監房の中を行ったり来たりし、寝台に座ったり、深呼吸したりするのが習わしだった。それが、わたしをリラックスさせ、通常のモードに早く戻したからだ。
とはいえ、なかには、昂った気分をクールダウンしたい人もいるだろう。その場合は、上記のウォーミングアップの手続きを反転すればいい。
ポール・ウェイド(PAUL"COACH" WADE)
元囚人にして、すべての自重筋トレの源流にあるキャリステニクス研究の第一人者。1979年にサン・クエンティン州立刑務所に収監され、その後の23年間のうちの19年間を、アンゴラ(別名ザ・ファーム)やマリオン(ザ・ヘルホール)など、アメリカでもっともタフな監獄の中で暮らす。監獄でサバイブするため、肉体を極限まで強靭にするキャリステニクスを研究・実践、〝コンビクト・コンディショニング・システム〟として体系化。監獄内でエントレナドール(スペイン語で 〝コーチ〟を意味する)と呼ばれるまでになる。自重筋トレの世界でバイブルとなった本書はアメリカでベストセラーになっているが、彼の素顔は謎に包まれている。

『プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』
ポール・ウェイド [著]/山田雅久 [訳]
CEメディアハウス[刊]
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