きびだんごは、おとぎ話の「桃太郎」でもおなじみのお菓子。犬、猿、キジが鬼退治のお供になるきっかけとなった。
絵本の挿絵として描かれているきびだんごも、岡山支局で勤務していた頃によく食べたきびだんごも、丸い。
けれど、駄菓子屋さんの「きびだんご」は、板状の長方形が主流。何で?
その謎を解く鍵は、北の大地にあった。
岡山名物は丸いのに…
偶然、先輩から岡山みやげにきびだんごをもらった。記憶の通り丸い。一方、駄菓子屋さんで改めて入手した「きびだんご」は、やっぱり板状だ。そもそも「だんご」って、丸いものじゃないの?
ここは専門家の知恵を借りよう。駄菓子屋研究家の土橋真さんに連絡すると「谷田製菓さんがオリジナル」との有力情報が寄せられた。
早速、北海道栗山町の谷田製菓に連絡したところ、谷田進太郎社長が快く取材に応じてくれた。
まずは、113年も続く谷田製菓の歴史を知りたい。創業者は谷田可思三(かしぞう)さん。可思三さんは13歳で親族とともに淡路島から北海道に移住し、家業のみそやしょうゆ造りを手伝いながら、醸造技術を学んだ。
1913年に水あめ製造で独立。2年後には大正天皇即位式の大嘗祭(だいじょうさい)にちなんだ「大甞飴(たいしょうあめ)」を発売し、ヒットした。
とはいえ、水あめが主原料の「大甞飴」は高温に弱いため、昔も今も販売は冬季のみ。そこで、通年販売できる商品として23年に誕生したのが、「きびだんご」だった。
水あめ、砂糖、もち米、生あんを練り合わせており、もっちりしてほどよい甘さ、懐かしさを感じる素朴な味だ。
長方形なのは、生産しやすいから。板状で携帯しやすく、長く保存しても変質しにくいため、おやつや間食用に、北海道内だけでなく全国に出荷した。
漢字で書くと「起備団合」
でも、何で「きびだんご」なんですか? 「(この年に起きた)関東大震災からの復興の願いと、北海道開拓の精神が折り込まれているんです」と谷田社長が教えてくれた。漢字で「起備団合」と書くきびだんごには、「事が起きる前に備え、団結して助け合う」の意味が込められている。
そして、パッケージのデザインに「桃太郎」を使ったのは「新商品を考えている時に、ちょうど横に『桃太郎』の絵本があったから」だそう。なるほど。いろんな出来事がつながったんですね。
保存性の良さから、第二次世界大戦中には軍の非常食に採用され、兵庫と中国・天津でも製造された。終戦後は、炭鉱労働者や農作業に従事する人にも重宝された。
50年代半ばには、谷田製菓の後を追うように、全国で数十社が「きびだんご」を製造し、安い類似品も数多く出回ったという。
先行していた谷田製菓の皆さんは複雑な気持ちかもしれませんが、駄菓子屋さんにはこの時期に広がったのかも。そういえば、前出の土橋さんは、真偽は不明としつつ、駄菓子にしたのは「『名古屋のメーカーが最初』と聞いたことはあります」と話していた。
一時は豆腐が主力に
「きびだんご」は、スナック菓子などに押されて、売り上げ自体が落ち込んでしまう時期もあった。事業の多角化で乗り切ろうと、谷田製菓はパック詰め豆腐を主力商品にしていたこともある。
それでも、平成に入ると、谷田製菓の「きびだんご」は、昔からある材料のみで作られた素朴な味わいであることから、見直されるようになった。
誕生時から今まで変わらぬ製法を守り続けており、とりわけ主力商品の「日本一きびだんご」は、パッケージの桃太郎のデザインも50年以上変わっていない。
ちなみに、昔のパッケージに描かれていた桃太郎はリアルタッチで、これも味がある。
きびだんご自体はオブラートに包まれていて、パッケージは一つ一つ手作業で包装している。一口サイズやミルク味、プロ野球・北海道日本ハムファイターズとのコラボ商品なども販売している。
きびだん「ボ」?
ところで、パッケージに書かれた文字は、きびだん……ボ?
「変体仮名の『こ』に濁点をつけた『ご』なんです」と谷田社長は教えてくれた。変体仮名とは、明治時代まで使われていたひらがなの異体字のこと。レトロで面白いですね。工場見学に訪れた子どもたちからも、よく聞かれるそうだ。
「日本一きびだんご」は、北海道ではスーパーなどで広く販売されている。近年はアスリートの携行食や、災害時の非常食としても注目されており、道外でもアンテナショップなどに並んでいる。
谷田社長は「長い間ご愛顧いただいて、本当にありがたいです。これからも安心しておいしく食べてもらえるお菓子を作り続けたいです」と語る。
「団結して助け合う」ことを願って生まれたきびだんごは、鬼退治よりむしろ、笑顔のお供がふさわしい。【水津聡子】
もち米もメロンも地元産
谷田製菓のある北海道栗山町は道央に位置し、夕張市に隣接している。新千歳空港や札幌市からは車で1時間程度。野球の日本代表「侍ジャパン」やプロ野球・北海道日本ハムファイターズで監督を務めた栗山英樹さんと同じ「栗山」という縁で交流があることでも知られる。
自然豊かな北海道で生まれ育った企業だけに、「日本一きびだんご」に使うもち米や、「きびだんご メロン味」に入っているメロン果汁など、地元の食材にこだわっている。
「実はチョコレート味や抹茶味の『きびだんご』も試作して、おいしくできたんですけど……。カカオや抹茶が北海道で入手できないんで、悩んでいるんです」と谷田社長。こだわり過ぎ! おいしそうなので、発売してほしいです。
毎年4月には近くの小林酒造の「酒蔵まつり」に合わせて「きびだんごまつり」を開催している。「くりやま老舗まつり」と位置づけられ、2日間でのべ3万人以上が訪れる。今年は4月11、12日の予定という。
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