北九州視覚特別支援学校(北九州市八幡東区)の小学部6年生で全盲の奥本駿さん(12)=小倉北区=が今春、筑波大付属視覚特別支援学校(東京都文京区)中学部に合格した。地域の点訳ボランティアや学習塾の協力が、奥本さんの点字による受験勉強を支えた。
トトトト――。点字盤を打つ音が響く。奥本さんの勉強風景だ。点訳された学習塾のテキストを読むのは左手。右手で回答を打ち込む。幼い頃、徐々に視力を失った。小眼球症による角膜混濁のためだ。小学校入学時から点字を学び始めた。5年生の時にあった点字競技会では、全国の小学生44人中7位に入るなど着実に習得してきた。
北九州視覚特別支援学校にも中学部があり進学はできる。だが、同学年に他の児童はいない。点字を主な学習手段とするのは、奥本さん以外に低学年の1人のみ。「休み時間に話す相手がいなくてさみしい。同級生と力を高め合いたかった」と筑波大付の受験を決めた。
受験支えたボランティアと塾
受験勉強のため頼ったのが、地域を拠点に活動する点訳ボランティアサークルと地域の学習塾だった。
学習塾で使う国語テキストの翻訳を、発足から約30年の点訳ボランティアサークル「わかば」に依頼した。ボランティアと視覚障害者が協力して小説や雑誌、専門書まで計800冊近くを点訳してきたが、学習塾のテキストの点訳は初めて。受験校の過去問を取り寄せ、本番の体裁に近い形にして工夫を重ね、毎週の通塾を支援した。中心メンバーで点字技能師の伊藤薫さん(76)は「受験問題の難しさに驚きながら点訳した。若い人の力になれてうれしい」と話す。算数のテキストは福岡市の点訳サークル「L.B.C.」が担当した。
一方、塾探しは難航した。「点字を打つ音が他の生徒の妨げになる」ためだ。しかし、数件目に依頼した「トライプラス小倉片野校」教室長の狩野善友さん(19)は「初めての経験だが、やってみないことには分からない。合わなかったらまた考えよう」と快諾した。テキストを見ながら奥本さんが読み上げる答えに合わせて解説する授業スタイルを試行錯誤。狩野さんは「言葉で伝える力が鍛えられ、自分の成長にもつながった」。学校も面接指導などで全面的に協力した。
受験経て生まれた目標
試験があったのは1月22日。26日に合格発表があり、スマートフォンが読み上げた自身の受験番号に、歓声を上げた。
合格後にわかばを訪れ「みなさんのおかげで合格できた。充実した中学校生活を送りたい」とお礼を言うと、わかばのメンバーは点訳した「お金のコンパス」(講談社)を合格祝いに贈った。漫画で経済を解説する内容で、点訳に約1年を要した。「これからも、たくさん本を読んで」と声を掛けた。
4月からは寄宿舎での生活が始まり、同級生とともに学ぶ。学校の規定で2週間ごとに帰省するので、わかばや塾とのつながりは今後も続く。「大学受験までお願いします」と笑顔を見せた。
受験を控えながら体調不良で入院した不安の中、担任教諭が寄り添ってくれたことが忘れられない。おかげで小学校教諭という目標もできた。「登校がしづらい子を支える教師になりたい。そのためにも、まず勉強をしっかり頑張る」【山下智恵】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。