桜の便りが各地から届く中、富士山のふもとの市が恒例の桜まつりの開催を取りやめた。外国人観光客らが絶景を求めて会場の公園に押し寄せ、地元住民に大きな負担が掛かっているからだ。まつりが開かれなくても公園に入ることはできるため、開花期間は交通規制などの安全対策を強化する。市の対応からは、観光客の受け入れと市民生活の間で揺れる苦悩が浮かぶ。【野田樹】
山梨県富士吉田市の新倉山(1180メートル)中腹にある新倉山浅間公園。急な石段や坂道を10分ほど上ると、忠霊塔と呼ばれる市出身の戦没者を追悼する五重塔が見えてくる。その裏手に富士山と五重塔を望む展望デッキがある。
18日間で21万人が訪れ
1959年に開園し、地元で親しまれてきた公園は、今や年間を通じて外国人観光客らでにぎわう人気スポットだ。春には約650本のソメイヨシノが咲き、「日本らしさ」を詰め込んだ絶景が広がる。市によると、昨年の来園者数は158万人。桜まつりがあった18日間(4月1~18日)で21万583人が訪れた。
桜まつりは、国内外の観光客が増えだした2016年から開催。コロナ禍後の23年から外国人観光客らが急増し、周辺の住宅街で車の渋滞が慢性化した。観光客が住宅の敷地に入ったり、庭先で用を足したりすることもあった。近くに住む70代女性は「家の敷地にたばこの吸い殻やガムをポイ捨てされるし、道が狭くて車ですれ違うのも大変。もうどうにもならないと諦めている」と嘆く。
市は、桜まつり期間中の警備員を増やし、2年前からは住宅街で車が渋滞しないように交通規制を実施。昨春は報道機関に取材を控えるように求める異例の対応も取った。それでも1日平均来園者数は3年連続で1万人超。市富士山課の勝俣美香・観光担当課長は「昨年の様子を見て、もう限界だと感じた。市を挙げてイベントを開くことはできないと判断した」と説明した。
これまでは観光客の受け入れに力を入れてきた。22年にふるさと納税を活用して展望デッキを約5倍に拡張。昨春には1カ所だけだった市営駐車場を4カ所(約180台分)に増やして有料化した。警備などに掛かる費用が大きくなり、「受益者負担」を求めつつ共存の道を探った。現在は入園の有料化に向けた検討も進めている。
「看板」下ろして観光客受け入れへ
今回は住民生活に配慮して桜まつりの「看板」を下ろし、昨春より安全対策を強化して観光客を受け入れることにした。交通規制は通学時間帯の午前7時半からに前倒しするほか、公園から離れた臨時駐車場の料金を割安にして分散を図る。
ただ、「花見をやめてほしい」と考えているわけではない。中止の発表後、市の担当課には「桜を見に行ってもいいか」といった問い合わせが複数寄せられ、勝俣課長は「『来ないで』というメッセージにならないように気をつけているが、発信の仕方が非常に難しい」と頭を悩ませる。一方、中止したことで関連情報へのアクセス数は減っているという。
堀内茂市長は、3月の定例記者会見で「地域住民が穏やかに生活できる状態をつくり、同時に観光客の皆さんにも快適に過ごしてほしい。(観光客を)排除する考えは持っていない」と話した。
「観光公害」などの著書がある城西国際大の佐滝剛弘教授(観光政策)は「外国人観光客の多くは写真を撮りたくて訪れるので、祭りの中止で事態が好転するとは考えにくい」と指摘する。
欧米の観光地では有料化と予約制が導入され、観光客の理解も広がっているという。佐滝教授は「観光地としての条件が悪い中、市はできる対策をしている。今後は有料化と一緒に予約制の導入を検討し、実験的に人数を制限していく段階ではないか」と話した。
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