「絶滅危惧野菜」を救え――。
気候変動による温暖化、担い手不足や高齢化で農業を取り巻く状況は厳しさを増している。
とりわけ生産が危ぶまれるのが、日本で古くから栽培されてきた在来野菜だ。
京野菜や加賀野菜がその代表例だが、知名度の低い品種はほとんど市場に流通しない。
そんな中、先端技術を活用して「絶滅」の危機にある在来野菜を守ろうという取り組みが今春スタートした。
在来野菜とは
現在、スーパーや店頭で見かける野菜は「F1品種」と呼ばれる商業品種が主流だ。
えぐみや苦みが少ない、育てやすいなどの性質をもつよう人工的に交配してつくられた品種を指す。
一方、農家によって種が守り継がれ、その土地の風土に適した野菜として長く親しまれてきたのが在来野菜だ。
代表例は、賀茂なすや聖護院かぶが有名な京野菜や、くわいなどの加賀野菜。ただ、こうした知名度が高い野菜以外の在来品種は規格外や自家消費用としてあまり市場に出回らない。
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と山形大学が2024年に公開した日本初の在来品種データベースには、全国47都道府県の309品種が在来品種として掲載されている。
ただ潜在的にはさらに多くの在来種が存在し、生産の危機に直面しているとみられる。
800年続く大根も
そんな在来野菜の保存・普及に取り組んでいるのが、元料理人の高橋一也さん(55)だ。
高橋さんが野菜のおいしさに気づいたのは、有名レストランに勤めていた1990年代。健康や食の安全への意識が高まり、有機栽培による「オーガニック野菜」が注目されていた。
有機野菜のバイヤーに転じた高橋さんは06年、長崎県内の農家、岩崎政利さんが育てた「平家大根」と出合った。
平家大根は800年前から種が受け継がれてきた大根で、一般的な大根よりも短く個性的な見た目だ。
「食べた時のおいしさも衝撃的でしたが、種が途絶えかねない在来野菜があることに衝撃を受けました」
高橋さんは11年、在来種や固定種の野菜を次世代に残すため、販売事業や農業支援を行う会社「warmerwarmer(ウォーマーウォーマー)」を創業した。
山形県最上地方で500年にわたって受け継がれてきた里芋「甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)」、福井県と滋賀県との県境に位置する集落「杉箸」で150年以上前から親しまれてきたカブ「杉箸アカカンバ」――。
高橋さんはこうした在来種を「絶滅危惧野菜」と定義する。
「京野菜や加賀野菜はJA(農業協同組合)がバックアップしていますし、福岡県の伝統野菜『かつお菜』などは地域文化に根付いています。そうした野菜たちとは違う、全国で1人しか守り手がいないような在来野菜を扱ってきました」
「絶滅危惧」背景に温暖化も
在来種の保存で大きな課題となっているのが、温暖化への対応だ。猛暑で収量が減少する例が見られ、昨年実施したアンケート調査でも、販路開拓に次いで栽培に頭を悩ませる農家が多かったという。
そこで、高橋さんらは今春、新素材や気象データなどの先端技術を栽培に生かす取り組みを始めた。
たとえば、住友金属鉱山(東京都港区)が特許を持つ「SOLAMENT®(ソラメント)」。高い透明度と近赤外線を吸収する性質から自動車のフロントガラスやアウトドア用品に使われる。
高橋さんらは今、住友金属鉱山とこの素材を農業用ハウスに利用する事業協力を進めている。
また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)認定のベンチャー企業「天地人」(東京都中央区)が開発したオンライン地理情報システム(GIS)を使って、人工衛星や気候のデータから栽培適地を分析・選定し種の継承につなげるプロジェクトも進める。
「日本では、高度経済成長の中で、大量に栽培しやすい野菜に画一化されました。多様性という考え方が社会に広がったことも、在来野菜が注目される土壌になったと思います」
高橋さんは絶滅危惧野菜が地域文化の活性化につながることも期待する。
「地域に合った野菜である在来野菜が見直され保存されていくことで、次世代の食文化や遺伝的多様性などさまざまな分野への可能性が開かれていくと思います」【山本萌】
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