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<血液がドロドロで、心筋梗塞や脳梗塞になりやすい人の「見た目」の特徴に迫ります。「顔」と「足」のある部位に出ているサインとは? ジャーナリストの笹井恵里子氏が聞きました。(東邦大学名誉教授 東丸貴信、聞き手/ジャーナリスト 笹井恵里子)>

「耳たぶのシワ」を見るとわかる心筋梗塞や脳梗塞になりやすい人の特徴

私は長年、平成横浜病院で総合健診センター長を務めてきました。体が健康であるかどうかは、血液検査や画像診断で確かめることが最も正確です。しかし、「見た目」でわかるサインもあるのです。特に血管や血液の状態がわかります。今回は3つのポイントを紹介しましょう。

まずは「耳たぶ」です。

耳たぶに斜めに深くシワが入っている人は、シワがない人と比べて、心血管疾患発症のリスクが高いという報告があります。なぜなら血管の状態と耳たぶにできるシワには深い関係があるのです。


年を取るとともに肌にシワが増えたり、髪が白くなったりするように、血管も弾力を失い、老化します。動脈の場合も、次第に硬く古いホースのようにもろくなり、血管の内腔が狭くなってしまうのです。これを「動脈硬化」といいます。動脈硬化が進むと血管内壁が傷み、傷んだ血管壁の表面では血栓(血液の塊)ができやすくなってしまうのです。

血栓でこの部位が詰まると、心筋梗塞や脳梗塞を生じやすくなります。図を使って説明しましょう。


【動脈硬化や血管病が起きる仕組み】

1.塩分、脂質、糖分などの取りすぎ、喫煙、運動不足の積み重ねで血管に負担がかかると、血管内壁の内皮細胞などの組織成分が傷む

2.血液中の悪玉(LDL)コレステロールが増えると、血管の内側を覆う内皮細胞層の下に入り込む。これが変化して酸化すると、貪食細胞に食べられる。そして脂の塊(粥腫)になり、内膜が厚くなってこぶ(プラーク)ができる。大きくなると血管内が狭くなり、血流が悪くなる

3.プラークが破れて、そこにできた血栓が詰まると、血流が途絶える。脳の血管が血栓で詰まれば脳梗塞、心臓に血液を送る冠状動脈が狭まって血流が一時的に減少すると狭心症に、血流が途絶すると心筋梗塞になる

しかし問題は、動脈硬化が進んでも、痛みや不快感などの自覚症状がないことです。気づいたときには深刻な状態に陥っているケースが少なくありません。

40年で激変した日本人と動脈硬化の関係

2009年にCirculation Journal(日本循環器学会誌)で発表された報告では、日本人212人を対象に耳たぶのシワと動脈硬化の関係を調べています。ちなみに耳たぶのシワは英語では「earlobe crease」と呼ばれ、論文ではELCと表記されています。

報告によると、ELCがある人は頸動脈エコー(首の血管の状態を確認する検査)で動脈硬化が確認され、さらに血圧も高い傾向にあるのです。

その理由を医学的に見ると、おそらく動脈硬化によって末梢の血液循環が悪くなる、つまり耳の毛細血管にまで血流が行き届きにくくなり、耳たぶが縮んでくると考えられます。動脈硬化が進みやすい生活習慣を送る人は、内臓脂肪が蓄積された"おなかでっぷり"タイプが多いのですが、耳に関してはむしろ痩せてしまうということですね。


ELCの研究は、もともとは1973年に発表された研究が発端で、そこでは東洋人、ネイティブ・アメリカンでは当てはまらないとされていました。実際、当時の日本では食生活が質素でしたから、動脈硬化を起こすような人は珍しかったのです。

それが前述した2009年の研究では、日本人にもELCが多数見られるようになったのですから、食生活が豊かになった半面、脂質や糖分、塩分の取りすぎには気をつけなくてはなりませんね。

「まぶた」や「膝」「肘」に黄色いしこりがある人は...

次に、動脈硬化の要因となる悪玉コレステロールのサインを紹介しましょう。

「黄色腫(おうしょくしゅ・xanthomas)」と呼ばれる、黄色のしこりです。「まぶた」や「膝」「肘」などにできやすいとされ、最初は小さな斑点のようにして現れ、徐々に大きくなります。一見、脂肪細胞が蓄積される「脂肪腫」と似ていますが、まったくの別物。皮膚科医なら間違いなく鑑別できるでしょう。

黄色腫は、皮膚の下にプラークができたようなものです。プラークとは「こぶ」のこと。血管内では、「悪玉コレステロールが内皮細胞の下に入り込み、これが変化して粥腫(じゅくしゅ・脂の塊)になるとプラークができる」と述べました。同じことが皮膚の下で起きるのです。

黄色腫ができる人は脂質異常症であるケースが大半

血管内でプラークが出現し、それが破裂すれば血栓ができて、脳梗塞や心筋梗塞を発症する恐れが高まりますが、黄色腫が皮膚の下で破れてもここに血栓ができるわけではありませんから、直接的に体に悪影響を及ぼすことは考えにくいでしょう。

ただし黄色腫ができる人は、悪玉コレステロール値が高いなど脂質異常症であるケースが大半。それも遺伝性の強い、もともと脂質異常症になりやすい体質の人(家族性高コレステロール血症)が多いです。

ヨーロッパの学会誌(「Atherosclerosis」誌)で2017年に発表された論文では、黄色腫が出現すると、心血管イベントすなわち心筋梗塞などが起こりやすいと報告されています。高コレステロール血症(脂質異常症)の患者102人中21人に黄色腫が認められ、患者らに冠動脈造影CT検査を行うと、黄色腫がある人は冠動脈疾患がより広範囲に及んでいるのです。


悪玉コレステロールが低下すると黄色腫は縮小する

また、黄色腫のある患者がスタチン(悪玉コレステロールを低下させ、動脈硬化などを予防する薬)を服用し、悪玉コレステロールが十分に低下すると、黄色腫が縮小することもわかっています。

つまり黄色腫が出現するということは体内で動脈硬化が進んでいることを示し、これが小さくなれば体内の血管の状態も改善されているという指標になるのです。

余談になりますが、コレステロールを下げる薬はさまざまにあり、その人に合った適切な薬を処方することが非常に重要です。日本とアメリカではそれぞれ動脈硬化のリスク計算式があり、患者の性や年齢、コレステロール値や血圧などを入力すると適切な薬がわかります。両国の指標を考慮しながら薬を選択すると、薬の効果の過不足といった事態になりにくいと考えています。

そして動脈硬化の進行を判断するには、血液検査の数値だけでなく、「CT検査」「MRA検査」や「頸動脈エコーなどの超音波検査」といった画像診断も大切です。数字的にボーダーラインでも、血管が狭くなっている部分や血栓、潰瘍(かいよう)などがなければ服薬よりも生活習慣改善に力を入れればいいでしょう。

一方で、検査数値はそれほど悪くなくても、CT画像で血管が真っ白(血管の石灰化といわれ、動脈硬化が進行してカルシウムがたまる)であれば服薬が必要です。

さて動脈硬化が起きている可能性が高いサインとして、耳たぶのシワ、まぶたや膝、肘にできる黄色腫を紹介しました。もう一つ、重要なサインがあります。

「アキレス腱が太い人」は動脈硬化がかなり進行している

実は「アキレス腱が太い人」も、悪玉コレステロール値が非常に高い恐れがあります。全身の体重がかかるアキレス腱には組織の修復を行うためコレステロールが活発に移動しますが、そこに悪玉コレステロールがたまるとアキレス腱が太くなるのです。

特に1.5cm以上の場合は悪玉コレステロールがたまりすぎているのかもしれません。「アキレス腱肥厚」といい、臨床の現場でもよく見かけます。

資料提供=東丸貴信医師

この現象は黄色腫と同様に、家族性高コレステロール血症の人に見られやすいです。悪玉コレステロールが皮膚にたまると肘や膝、手首、お尻に黄色腫ができやすくなり、腱にたまるとアキレス腱が厚くなってしまうということです。


アキレス腱肥厚の人はコレステロールが高く、動脈硬化が起こりやすいことは以前からわかっていましたが、2023年に報告された新しい論文では「冠動脈カテーテル治療を受けた狭心症などの患者の経過を見ると、アキレス腱肥厚の人は予後が悪い」ことがわかっています。再発や死亡の危険性が高いということです。

つまりアキレス腱肥厚が起きてしまう時点で、動脈硬化がかなり進行していると考えられます。

動脈硬化は全身で起こっていますから、アキレス腱だけでなく、全身の血管に悪玉コレステロールが悪さをしているのです。

暑い時期は脱水によって毛細血管の血流が悪くなる

あなたや周りの人で3つのサインの1つでも気づいたなら、一度血管の状態を詳しく調べたほうがいいでしょう。また見た目のサインがなくても、健康診断でコレステロールや血圧の高さを指摘されたなら、動脈硬化の進行や血管の詰まり具合、血栓や潰瘍の有無が確認できる「頸動脈エコー検査」、血管の硬さを見る「血圧脈波検査」を受けることをお勧めします。

悪玉コレステロールによってドロドロ血液に、それらが血圧や血管に悪影響を及ぼしているかもしれないからです。

さらに暑い時期は脱水によって血液が濃くなって血液粘度が上がり、毛細血管など細い血管で血液が流れにくくなります。つまりどんな人でも、ドロドロ血液になりやすいのです。またストレスも血管内の酸化ストレスが増え、白血球などの粘着性が高くなり、末梢の血流を悪くします。

心臓や血管の健康を守るため、夏は適度な水分摂取をし、心身のストレスを避ける生活を心がけましょう。

※当記事は「DIAMOND online」からの転載記事です。元記事はこちら。

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