
「学びの多様化」とともに、通信制高校を選択する子どもが増えている。2025年度の学校基本調査(速報値)によると、通信制高校の生徒数は過去最多を更新し、初めて30万人を超えた。5年前の約1・5倍、高校生全体の10%に近い。オンラインだけじゃない通信制高校の「リアル」な授業の一コマを紹介したい。【川西もゆら】
7月20日に投開票された第27回参院選。その少し前に「市長選」を経験した高校生がいる。藤川大雅さん(16)と吉野智貴さん(15)。2人は、通学もできる通信制の「第一学院高校」宇都宮キャンパスで出会った。自分で取りたい授業を組みあわせて「自分だけの」時間割を作る。2人が通信制を進学先に選んだ理由の一つだ。
暑さが本格化した7月初旬、高校が用意した主権者教育の授業に参加することにした。模擬選挙を通して選挙の仕組みや意義を理解し、自分の考えがどのように変わるかを意識するのが狙い。「投票所」は毎日新聞東京本社の大ホール(東京都千代田区)だ。

オンラインの事前授業では、元政治部記者の与良正男さんが「自分にとっての幸せはなにか」から徐々に視野を広げることで「日本の幸せはなにか」についても考えることができると教えてくれた。締めくくりは「政治の話ができる大人になろう」だった。
7月11日、同高の生徒約30人が全国から集まり、模擬投票に参加した。教職員が演じた3人の候補から架空の市長を選ぶ選挙だ。市の最大の課題は「人口流出」。少子化が進み、廃校となってしまった中学校の跡地をどう活用するか、市に若者を呼び込むにはどうしたらいいかを考え、投票先を決めた。

藤川さんは、子育て支援に力を入れる候補に1票を投じた。「子育て世代や若者を支える施策を講じれば、自然と人は増えていくのではないか」。ところが、友人の意見はちょっと違う。「財源はどうするの? もともと人が流出してお金がないのに、若者のためにお金を使えるの?」。経済施策を強調する他の候補に心が動いた。
吉野さんは、ショッピングモールの誘致を公約に掲げる候補に魅力を感じた。「すぐにできて、効果が出るのも早い。人がショッピングモールに集まれば、市が活性化する。若者も増えるはず」。友人にも、この考えを話してみた。
2回目の投票は、2人とも悩んだ末に1回目と同じ候補に投票した。一方、全体の結果では経済施策を掲げた候補に1回目より多く票が集まった。

模擬投票で知ったことがある。それは、大人が投じた1票が、本当に世の中を動かしているということ。そして、自分の1票が未来を変えるかもしれないこと。藤川さんは「大人ってこんなことをしているんだな」と、改めて思った。
2人の本番の投票はもう少し先だ。「政治の話ができる大人になる」ため、今から挑戦しようと思っていることがある。「政治のニュースを見てみます。それと、家族の意見も聞いてみたい」
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