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<薬にも手術にも頼らず、「体を使う」心理療法の効果が実証された...認知機能療法とは?>
慢性的に腰痛に悩む人に、少なくとも3年間は持続する痛みの軽減をもたらす可能性がある心理療法がある。
オーストラリアのカーティン大学とマッコーリー大学の研究チームによる最新研究で、「認知機能療法(CFT:Cognitive Functional Therapy)」と呼ばれる治療法の効果が示された。
認知機能療法(CFT)は、鎮痛剤、理学療法、マッサージ療法などの従来の療法よりも、腰痛への効果が最大1年間続くことが先行研究で示されていた。
今回のランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)では、その効果が3年間持続することを初めて示した結果となった。
認知行動療法(CBT)と認知機能療法(CFT)の違い
認知行動療法(CBT)が会話を中心とした療法であるに対し、認知機能療法(CFT)は、「身体で行う療法」に近いと、本研究を率いた理学療法を研究するマッコーリー大学のマーク・ハンコック教授は述べる。
信頼、自信、身体への意識を構築し、恐怖や回避の対象となっている動作や身体活動に段階的に慣れさせ、生活習慣にも働きかける。認知機能療法(CFT)は3つの柱で構成される。
第一は「痛みの理解」で、患者の経験を通して痛みを再解釈し、いわゆる「生物心理社会モデル(Biopsychosocial Model)」の視点を提供。第二は「コントロール下での曝露」で、恐怖を伴う動作への自信を取り戻す。第三は「生活習慣の改善」で、身体的・社会的・心理的な健康を促進する。
単に症状を和らげるのではなく、腰痛の原因にアプローチするため、長期的効果が期待できるとハンコック教授は述べる。
今回の試験では、慢性腰痛患者492人が、従来型の治療、認知機能療法(CFT)、または認知機能療法(CFT)に[心拍数などの身体機能を計測し、患者自身が調整できるようにする]バイオフィードバックを加えた治療のいずれかを、ランダムに8回受けた。
認知機能療法(CFT)は最初の3カ月間で行われ、6カ月時点に1回追加。その後は介入なしでも効果は持続した。
「認知機能療法(CFT)群」と「認知機能療法(CFT)+バイオフィードバック群」は、ともに従来型治療よりも身体活動の改善が見られたが、両群間の差は小さく、統計的な有意性は確認されなかった。この結果は、3カ月後、1年後の結果とも一致していた。
本研究では、必要に応じて他の治療を併用することも認められたが、グループ間の差を生んだのは認知機能療法(CFT)であった。
研究チームは、認知機能療法(CFT)が慢性腰痛患者の身体活動に長期的な利益をもたらすこと、そして広く導入されれば腰痛による社会的負担を大きく減らせる可能性があるという(ただし、導入には専門家の研修の拡充と、臨床現場での再現性の検証が必要となる)。
認知機能療法(CFT)はがん、感染症、骨折などの重篤な原因を除くほぼすべての慢性腰痛患者に効果が見込めるが、万能薬ではないことにも留意が必要だ。約70%の被検者が良好な反応を示した一方で、残る患者に対する支援方法は今後の課題とされる。
ただし、特に腰痛の症状が重い患者での効果が大きかったとして、腰痛以外の疾患にも応用できる可能性が高いと、研究チームは述べる。
認知機能療法(CFT)のようなアプローチは、低リスクかつ持続可能であるため、医療政策として支援すべきであるとハンコック教授は述べる。研究チームの共同執筆者らは、腰痛に関する啓発や現場の専門家向けの研修の提供を目的としたプロジェクトも進行中だ。
しかし、多くの国では手術や治療、画像診断、鎮痛剤の処方薬など高額かつ時に副作用のある治療は保険適用される一方で、認知機能療法(CFT)のような安全性が高く、効果の見込める治療方法へは保険適用対象外だという。この状況に対して、ハンコック教授は懸念を訴える。
アメリカ国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)によると、アメリカの成人の約8.2%が重度の慢性腰痛を抱え、その約4分の3が移動や社会参加、健康管理や就労に困難を抱えている。
【参考文献】
Hancock, M., Smith, A., O'Sullivan, P., Schütze, R., Caneiro, J. P., Laird, R., O'Sullivan, K., Hartvigsen, J., Campbell, A., Wareham, D., Chang, R., & Kent, P. (2025). Cognitive functional therapy with or without movement sensor biofeedback versus usual care for chronic, disabling low back pain (RESTORE): 3-year follow-up of a randomised, controlled trial. The Lancet Rheumatology.
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